これまでウィーザー、ザ・シーホーセズ...と台風9号で飛んだ『FUJI
ROCK FESTIVAL
'97』2日目に登場予定だったアーティストの単独公演を『FUJI
ROCK復讐戦』と称し観に行っている私。そんな私が今回観に行ったフー・ファイターズも同じく『FUJI
ROCK』参加アーティストだが、1日目に登場し、大雨のなか熱演を繰り広げた。だから今回のフー・ファイターズの単独公演は私にとっては『FUJI
ROCK復讐戦』ならぬ『FUJI ROCK復習戦』になる訳だ。
私が足を運んだのは、クラブ・ダイアモンドホールで1月24日に行われた名古屋公演。この日はこの冬一番の寒気が流れ込んだとかで、寒い一日だったが、こ~ゆ~日に限って「器材トラブルのため、開場時間が遅れます」...みんな非常階段に作った入場待ちの列のなかで寒さに震えていた。20分遅れでようやく客入れが始まった。クラブ・ダイアモンドホールは新宿リキッドルームみたいに雑居ビルの5階にあるライヴハウスで、リキッドルームの8割ぐらいの広さ。ステージ上には何故かドラム・セットが2つ用意されていた。
開演予定時刻の7時を過ぎると、まだフー・ファイターズのメンバーが現われないにもかかわらず、観客のテンションが異様に高まり、「デイヴ〜!」とか「Foo
Fighters!」との連呼が起こるほど。ローディーのかたがマイクテストにステージ上に現われただけでも「ウォォォ〜!」と地鳴りにも似た歓声が起こったぐらいだ。これを目のあたりにして「怖いィィィ〜!」とおじけづいた女のコも居たほど。そして予定を15分ほど過ぎた頃、突然照明が消え、暗闇のなかフー・ファイターズのメンバー4人が登場。彼らのスタンバイO.K.を待って照明が灯くと同時に演奏が始まった。そこで観客の目に飛び込んできた光景とは...。ステージ中央のドラムセットで激しくプレイするドラマーのテイラー・ホーキンス。その左のドラムセットではこのバンドのリーダーで、ヴォーカリスト兼ギタリストのデイヴ・グロールがテイラーに負けじと激しくドラムを叩いてた。デイヴはあのニルヴァーナのドラマーだった人物で、ドラム演奏はお手のもの。フー・ファイターズのライヴはテイラーとデイヴの壮絶なドラムバトルで幕を開けた。1分間ほどのドラムバトルを終えた後、ドラムセットから降りてギターを構えたデイヴが演奏し始めたのは新作『ザ・カラー・アンド・ザ・シェイプ』から“Monkey
Wrench”。こんなオイシい曲をいきなり与えられ大興奮の観客はモッシュの嵐で大合唱。この反応は曲がそういう曲だから解る。だけど、次の“Hey,
Johnny
Park!”や4曲目の“Doll”のようなどちらかといえば聴かせるタイプの曲でも大合唱になったのは大きな驚きだった。カート・コバーンの猟銃自殺という悲劇で幕を閉じたニルヴァーナから心機一転再起を図ったデイヴが新たに始めたバンドであるフー・ファイターズだが、新作レコーディング中のドラムのウィリアム・ゴールドスミスの脱退、『FUJI
ROCK』終了直後のギターのパット・スメアの脱退...と困難が次々降りかかってくる。「(いちどニルヴァーナという)『俺たちのバンド』を失った悲劇を繰り返してなるものか!!!」とフー・ファイターズだけは何が何でも解散させない!というオーディエンスの強い意思統一を感じた。勿論こういう意思統一が『ニルヴァーナの悲劇』のみを下敷きにして形成された訳ではなく、フー・ファイターズの持つ圧倒的なポジティヴさによる要因も大きい。ヒゲをたくわえたデイヴは見るからに人が良さそうで、笑顔を絶やさず、曲間に英語によるMCで(たまに日本語もアリ)観客とコミュニケイトしていた。そんなポジティヴィティーの塊であるデイヴを盛り立てようという個々の意思がひとつになった瞬間があの場だったのだろう。ライヴが進んでもフロアの客のモッシングは続き、『人上水泳』する者は勿論のこと、大会場の割には警備が甘かったためステージ上に駈け上がりステージ・ダイヴをする者も続出した。私はこんな状況にもかかわらずステージから3列目くらいに居て、モミクチャになり汗まみれになっていた。会場の後ろのほうのカウンターがあり段になっているところには静かにライヴを眺めている醒めた観客たちが居て、彼らの姿を見ながら「どうして私はこんな苦しいところに居て、あそこに居ないんだろう?」と不思議に思ったりもしたが、肉体的に苦しくとも精神的にはフロアでモミクチャになっていたほうが快適だった...だから私は最後までフロアに居たのだろう。
今回のライヴで初めて気付いたのが、デイヴの地声はCDで聴かれる声よりも高いこと。バラードの“Walking
After
You”などはキーを上げて演奏されていたが、デイヴは地声でシットリ歌いあげるのはまだ慣れていないらしく、音を外しまくっていた。この時だけはあれだけ盛り上がってた観客もヒいていた...。やはりシャウトするデイヴのほうが安心して聴いてられる(笑)。デイヴの「今夜は来てくれてありがとう。これが今夜の最後の曲!」との英語のMCで始まった“New
Way
Home”が終わるとデイヴたちはステージを後にした。が、これだけ過熱したファンがこれでライヴが終わるのを許すハズがない。
アンコールの求めに応じステージに戻って来たデイヴたち。ドラムのテイラーがまずお遊びでT・レックスの“Get
It
On”のリフを叩く。テイラーはドラムを思いっきり叩く反動を利用してスティックを宙に跳ね飛ばす技を持っており、ここで盛んにその技を披露した。そんな彼をデイヴは「the
power station!」と紹介してた。アンコールではデビュー作から“This Is A
Call”、“I'll Stick
Around”とお約束のナンバーを披露。ここらになるとみんな息切れして合唱が出来なくなり、歓声中心になっていた。“I'll
Stick
Around”が終わるとデイヴは笑顔を見せながら手を振り、新ギタリストのフランツ・スタールは「ドモ、アリガト」と日本語で言ってステージを去った。こうして観客のテンションが異様に高かった熱いライヴは終わった。会場から出ると名古屋の街は薄く雪化粧していた。
【SET LIST】...'98.1.24
名古屋クラブ・ダイアモンドホール
1. Monkey Wrench
2. Hey, Johnny Park!
3. Alone + Easy Target
4. Doll
5. My Poor Brain
6. See You
7. Enough Space
8. Up In Arms
9. For All The Cows
10. Big Me
11. Watershed
12. Walking After You
13. Weenie Beenie
14. Everlong
15. New Way Home
(encore)
1. This Is A Call
2. I'll Stick Around