'97年度ブリット・アウォード(つまり、英版グラミー賞)で、最優秀新人賞を獲得するなど、本国イギリスでは圧倒的な人気と評価を誇るウェールズ出身の3人組・ステレオフォニックス。日本では今年の7月ようやくデビューを果たし、いきなり『FUJI
ROCK FES.
'98』の大舞台を踏んだ。この『フジ・ロック』の時私は彼らの演奏にモノ凄く期待していたのだが、アルバム・リリースからまだ2週間しか経っていないということもあってか、観客の反応が鈍く、イマイチ盛り上がりに欠けていて残念に思えてならなかった。良いライヴというのは演る側のパフォーマンスは勿論のこと、観る側の反応も大事だと考えるなら、「ステレオフォニックスが好きで好きでたまらない!!!」というファンばかりで占められた会場で彼らの演奏を観たい!と思うのは当然のこと。というわけで10月16日、フロアの2/3以上は観客で埋っていた名古屋クラブ・クアトロに足を運んできた。観客の殆どは20前後で、男女半々。私と同年齢以上のような観客は10人も居なかった...。
7時10分前、フロアの灯りが落ち、スピーカーから歓声や手拍子のS.E.が流れ始めた。これに合わせ観客の殆どが手拍子を始めた頃、ステレオフォニックスの3人...ケリー・ジョーンズ、リチャード・ジョーンズ、スチュアート・ケイブル...が現れた。ヴォーカル兼ギターのケリーが英語で観客に挨拶し、演奏し始めたオープニング曲は“Check
My Eyelids For
Holes”。ステージに向かって左にケリー、右側にベースでバック・コーラスも担当するリチャード、ステージ中央奥にドラムのスチュアート。パラグアイ代表GKのチラベルトをひとまわりもふたまわりも小さくしたような感じの、ガッシリした体躯でいながら小柄なケリーは顔を左側に傾ける姿勢でいきなり熱唱...というか『激唱』。次に“Last
Of The Big Time
Drinkers”をプレイした後、ケリーは「次に演る曲は今度出るニュー・シングルだ」と紹介。これに観客は歓声を上げていた。新曲の後は“A
Thousand
Trees”。「1本の木から1,000本ものマッチを作れるが、1,000本の木を燃やすには1本のマッチでこと足りる」と歌われるこのステレオフォニックスの代表曲では観客はケリーの歌に合わせて歌い、例のフレーズの部分では大合唱になった(ここでは私も歌った...笑)。さらには観客の上をころころ転がる者も現れた。この後も人気ナンバーでは観客が一緒に歌ってくれるので、ライヴの中盤以降、リチャードはコーラスを付けなくなった(笑)。
ケリーは曲を演奏する前に必ず曲名の紹介をするなど、それなりのおしゃべりをしていた。が、観客からの「ケリィ〜!!!」との声援に応じることは全く無かった。というと、ケリーは無愛想な奴のように思えるかもしれないが、どちらかというとケリーはファンから声援にどうやらテレていたようで(笑)、どう反応していいやら分からない...といった塩梅。というように、ステレオフォニックスの3人...特にケリー...は(良い意味で)田舎の純朴過ぎるくらい純朴なクソマジメな青年たちといった風情。ま、このことはCDでのケリーの硬派過ぎる歌声を聴けば想像ついたが。
そのケリーのヴォーカル、『音符を外さない』といった意味での歌の上手さは(イギリスの新人ロック・バンドとしては珍しく)問題無くクリア。私がライヴで実際にケリーのヴォーカル・パフォーマンスを目のあたりにして「凄い!」と感じたところは、ケリーのヴォーカルがステレオフォニックスの曲の歌詞世界に封じ込められているモノを完全に体現しているところ。ステレオフォニックスの曲の歌詞世界を乱暴に括ってしまうと、若さゆえの『痛み』と『苦しみ』...ということになるが、ケリーのヴォーカルはこれらの哀愁を完全に表現しきっていた。これはホントになかなか出来る芸当ではないゾ! (こう言うと熱心なマニックス・ファンに叱られそうだが)彼らの故郷・ウェールズの先輩であるマニック・ストリート・プリーチャーズが、メンバーを1人失い、アルバム5枚目でようやく身に着けた『痛み』と『苦しみ』の表現技巧に、ステレオフォニックスはアルバム1枚とそのツアーだけで追い付いてしまった感じさえする。とにかくケリーのヴォーカルは想像を遥かに上廻る表現力と説得力を持っていた!!!
ライヴのほうは、デビュー・アルバム『ワード・ゲッツ・アラウンド』からの曲に、時折新曲やシングルB面曲(←てなことまで紹介する律儀なケリー...笑)を織り混ぜながら進んでいった。“Same
Size Feet”や“Too Many
Sandwiches”...といった盛り上がる曲をプレイした時は過激な客が次々ところころ転がっていくなど、オーディエンスの反応は熱かった。そんな観客が大合唱と『人上水泳』で応えた人気ナンバー“Local
Boy In The
Photograph”を披露するとステレオフォニックスの3人は一旦ステージを後にした。
観客のアンコール要求の手拍子がしばらく続くと、ステージにローディーのオッサンが現れて喜劇役者みたいに芝居がかったコミカルな前説を始め、「Stereophonics〜!!!」と3人を呼び出した。だけど実際にステージに戻って来たのはアコースティック・ギターを構えたケリーだけ(笑)。アンコール1曲目はケリーのアコギ1本での弾き語りによる“Billy
Daveys
Daughter”。この後、リチャードとスチュアートも戻って来て、ケリーはアコギのままでカヴァー曲をプレイ(ケリーは「フェイセスの曲」と言ったみたいだがヒアリングにイマイチ自信無し)。カヴァー曲の後、ギターをエレキに持ち替えたケリーが「次は今回のジャパン・ツアー最後の曲だ」と説明(この日の名古屋が最終公演地)。「エエエッ〜!!!」と観客がざわめくなか披露されたのが、これまた人気曲の“More
Life In A Tramps
Vest”。観客はこれが最後とばかりに大合唱と『人上水泳』で盛り上がるとケリーは「thank
you! good
night!」と手を振りステレオフォニックスの3人はステージを去った。こうして、3人のローカル・ボーイの純朴さ全開の硬派なライヴは終わった。ライヴ終了後、会場に流れた『客出し』の音楽は先程アンコール2曲目にプレイされたカヴァー曲のオリジナル・アーティストによるヴァージョン。自分たちがカヴァーするほど好きな曲のオリジナルを是非ともファンに聴いてもらいたい(?)というひたむきさから来る(??)ファン・サービスだろうか??? どこまでも純な3人だった(笑)。
【SET LIST】...'98.10.16
名古屋クラブ・クアトロ
1. Check My Eyelids For Holes
2. Last Of The Big Time Drinkers
3. ? (新曲?)
4. A Thousand Trees
5. Looks Like Chaplin
6. Same Size Feet
7. ? (新曲?)
8. Too Many Sandwiches
9. Not Up To You
10. T-shirt Suntan (新曲)
11. Traffic
12. Carrot Cake And Wine (?、U.K.盤『A Thousand
Trees』シングルB面曲)
13. Goldfish Bowl
14. Local Boy In The Photograph
(encore)
1. Billy Daveys Daughter
2. ? (フェイセス?のカヴァー曲)
3. More Life In A Tramps Vest