'96年に衝撃的なデビューを飾った英国の4人組、クーラ・シェイカー(以下、クーラ)。その筋の音楽雑誌では大絶賛をもって迎えられた彼らだが、私にはクーラの持つ過剰なまでのインド趣味が胡散臭く感じられて仕方なかった。'96年11月に行われた初来日公演を観て、彼らの演奏が英国の若手バンドにしては上手かったので(特に、アロンザとポールのリズム隊)、幾分彼らを見直したりもしたが、私のなかでの『クーラ・シェイカー
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インド趣味に凝り固まった胡散臭いバンド』という認識を変えるまでには至らなかった。ところが今年の2月にリリースされた2ndアルバム『ペザンツ、ピッグス&アストロノウツ』を聴いたところ、デビュー作で感じられた胡散臭さが無くなっていた! インド哲学やら何やらのロジックを振りかざすのをやめ、音楽にモノを言わせようとしたかのような作風に大いにクーラを見直した私。新作にも“Radhi
Radhi”のようなインド民謡もどきの曲があるが、デビュー作『K』にあった『押し付けがましさ』は感じない。ま、こちらがクーラのインド趣味に慣れただけのことかもしれないが(笑)。ということで、大いに見直したクーラの2年半振り、2度目のジャパン・ツアーを6月6日、ZEPP
TOKYOで観て来た。
ZEPP
TOKYOは、新橋駅から『ゆりかもめ』に乗って行く臨海副都心にあるオープン間もないライヴ・スポット。あの宇多田ヒカルが東京での初ライヴを行った場所としても知られてる。2000人くらいはラクに入りそうな大きな会場だ。今回のクーラのライヴのプロモーターはウドー音楽事務所。ウドーが仕切るスタンディング形式のライヴについての『評判』はいろいろ聞いているが、ステージに沿う形で帯状に細かくブロックごとに区切られたフロアを実際に目の当たりにして、これなら怪我人が出ることはないだろうな...と実感。どんなに熱心なファンであろうと、持ってるチケットが『Aブロック指定』じゃない限り、ステージ真ン前には行けないシステム。ただし、男女比が3:7で、女性の姿が目立つ会場では、ステージ前に押し寄せたり、ダイヴしたりする者が出ないように観客が『管理』されているのはいいことなのかもしれない。そういう混乱状況で犠牲になるのはいつも女性だから...。『Eブロック指定』のチケットを持つ私は、寒いくらいに冷房が効いたフロアの中ほどの『指定された位置』で開演を待っていると予定時間の5時ちょうどに会場の灯りが消えた。クーラがステージに登場するものと信じて疑わなかった観客が歓声を上げたが、クーラはステージ上に姿を見せないわ、開演前のBGMは流れたまんまだわ...で、とてもライヴが始まりそうな状況ではなく、どうもアーティストの意向を無視して、定刻になった途端、客電を落としたらしい。ウドーが仕切るライヴっていつもこうなの?(笑) 結局、クーラがステージに現われたのは15分ほど過ぎたところでだった。
ステージに登場したクーラの4人が演奏し始めたオープニング曲はデビュー作『K』より“Knight
On The Town”。次はこれまたデビュー作からの人気ナンバー“Hey
Dude”で、歌詞の♪catch the
sun~!に合わせて、多くの観客が手を上げて『太陽をつかむ』マネをみせた。ステージ上にはクーラの4人の他、パーカッションとバック・コーラスを担当するサポート・メンバーが1人居る5人編成。クーラのフロントマンのクリスピアンが黒か紺系統のTシャツを着ていたのをはじめ、ベースのアロンザとドラムのポールもTシャツ姿。ただし、いつの間にか長髪になり、一部ファンに「太ってしまった!」とショックを与えている(笑)キーボードのジェイだけは、ステージ衣装然としたラメ入りの紫の上着を着ていた。“Hey
Dude”の後、クリスピアンが「“Hurry On
Sundown”〜!」と手ぶりを交えて曲紹介し、ホークウィンドのカヴァーをプレイ。さらにクリスピアンが「108
Battles~!」と曲紹介して始まったのが、新作からの“108 Battles (Of The
Mind)”。この曲では女性バック・コーラスが無い代わりに、アロンザがコーラスを担当したが、裏声なので気色悪かった(笑)。この後、ファンの誰もが知るSEが会場に流れる。新作『ペザンツ、ピッグス&アストロノウツ』のアタマを飾るSEだ。このままアルバムどおりの流れで“Great
Hosannah”、ヒット曲の“Mystical Machine
Gun”、そして“S.O.S.”...と新作のアタマ3曲をプレイした。クリスピアンのMCを挟んでプレイされた“Start
All
Over”はCDよりもキーを高く設定して歌ったクリスピアン、ヴォーカルが不安定になった。この曲、私の好きな曲なのに...(笑)。ここで披露されたのは人気ナンバー“Greatful
When You're
Dead”。代表曲を出し惜しみすることなくプレイするクーラに「アンコールでは何を演るんだ?」と心配になった(笑)。そのままアルバムどおりの流れで“Jerry
Was There”を演奏した後の“Into The
Deep”でもCDよりもキーを高く設定したせいでクリスピアンのヴォーカルがヨレた。初来日公演でもそうだったが、CDどおりに歌えばいいのにキーを高くして『自滅』するクリスピアン(この後も2曲ほど、キーを高くしてヴォーカルが安定さを欠いた曲があった)。クリスピアンから一緒に歌うように要求があった(もっとも、そんな要求しなくてもファンは♪ナーナナ、ナーナナ〜と歌っていたが)ディープ・パープルのカヴァーの“Hush”を披露すると、クリスピアンは「アリガト!」とこの日初めて日本語を喋り、さらにジェイも「アリガト!」と、クリスピアンよりもハッキリとした発音で御礼を言い(笑)、クーラの4人+1人はステージを去った。
ファンの熱心な要求に応えたアンコールでは、ジェイのオルガン・フレーズがドアーズの“Light
My Fire”(邦題は“ハートに火をつけて”)を思わせる“Sound Of
Drums”と“Last
Farewell”、そして“Govinda”をプレイ。演奏し終わると、クリスピアンはステージ前の客(すなわち、Aブロックの客)に手を差し伸べ、何名かと握手していった。
広〜い会場だったので、ファンの盛り上がりかたも幾らか控えめで、アーティストとファンとの一体感が幾分少なく感じられた。が、クリスピアンに数曲キー設定を考え直して欲しいのと、アロンザの裏声コーラスへの違和感を除けば、クーラの演奏は問題無し。クーラのライヴにはおごそかなムードづくりに走るパターン(A)とグルーヴ感を重視するパターン(B)...の2つのパターンがあるとのことだが、今回はパターン(B)だったかな?(笑)
【SET LIST】...'99.6.6 ZEPP TOKYO
1. Knight On The Town
2. Hey Dude
3. Hurry On Sundown (ホークウィンドのカヴァー曲)
4. 108 Battles (Of The Mind)
5. Great Hosannah
6. Mystical Machine Gun
7. S.O.S.
8. Start All Over
9. Greatful When You're Dead/Jerry Was There
10. Into The Deep
11. Tattva
12. Shower Your Love
13. Hush
(encore)
1. Sound Of Drums
2. Last Farewell
3. Govinda