消えた『幻の名盤』を追って

File #16

DEBORAH HOLLAND-- Freudian Slip
(1994年、廃盤)
1. My Favorite Joe 2. Siamese Twins 3. 20/20 Vision
4. Dog And Pony Show 5. Tired And True
6. Washingtown Square At Night 7. Get Out Of Dodge
8. House Of Volunteers 9. We Don't Need A Reason
10. Charlie Parker's Dream
11. All My Friends Are Leaving

 『彼女の才能を世に送り出す為に結成され、史上屈指のトリオと謳われたANIMAL LOGIC(スチュワート・コープランド、スタンリー・クラーク)のボーカリストのソロデビュー・アルバム。(以下、省略)』

 このアルバム発売当時の輸入盤専門店『CISCO』の広告(音楽雑誌『rockin' on』'95年1月号に掲載)のタタキ文句をそのまま紹介されていただきましたが(笑)、アニマル・ロジックがホントに『彼女の才能を世に送り出す為に結成され』たかどうかについての真偽はともかくとして(笑)、世の音楽ファンの多くはアニマル・ロジックのヴォーカリストとして彼女のことを知ったのは紛れもない事実。
 アニマル・ロジックとは、元・ポリスのドラマー、スチュワート・コープランドと、ジャズ界の屈指の名ベーシスト、スタンリー・クラーク、そしてデボラ・ホーランドの3人で結成されたバンド。1989年に『Animal Logic』(邦題は『ハウス・オブ・ラブ』でしたっけ?)、1991年に『Animal Logic (II)』をリリースしたものの、鳴かず飛ばずのうちに解散した...という命儚さ。このアニマル・ロジックは、スタンリー・クラーク目当てのジャズ・ファンも注目してただろうけど、圧倒的にポリス・ファンが飛びついてたバンド(笑)。ポリス活動停止後、スチュワート・コープランドが初めて組んだ本格的に始めたバンドってことで、元・ポリスのファンだった私もチェック入れてた(笑)。だけど、このアニマル・ロジック、殆どの曲の作詞・作曲はデボラが手掛けてたし、サウンドの中心はあくまでもデボラの歌だった。バンドの実態を考えると、アニマル・ロジックのことを『彼女の才能を世に送り出す為に結成され』たというのは間違った表現じゃないと思います(笑)。だけど、アニマル・ロジックは、デボラの歌と曲の才能を堪能するために聴かれた...っつうよりも、ポリス・ファンのみなさんが「おお、スチュワートさまがタイコをお叩きになっていらっしゃる」と感慨に浸るためだけに消費された気がする。スチュワートの叩くドラムの音って個性が強いから、聴けば「アッ! スチュワートが叩いてる!」ってすぐに分かるもんね(笑)。すかたん!
 ...ってことで(笑)、アニマル・ロジックは解消。デボラはソロ・シンガーに転向。それが1994年10月にリリースされた『Freudian Slip』。「フロイト学派のスリップ」とは意味深なタイトルですね(笑)。勿論、スリップとは女性の下着のスリップです。このアルバムには、スチュワート・コープランドさまがゲスト参加しておりまして(爆笑〜!!!)、アルバムのアタマからいきなりスチュワートが叩くタイコで始まります(笑)。このアルバムには3人のドラマーが参加してます。『デブハゲ』ことフランク・ブラックのバックのカソリックスで活躍するニック・ヴィンセント、元・
MR. ミスターで現・キング・クリムゾンに在籍するパット・マステロット(←何だか、このコーナーの常連になりつつありませんか?...笑)、そしてスチュワート。このアルバム聴いてるとやっぱりスチュワートさまのドラムだけが耳を突いてきます。他の2人はバック・ミュージシャンに徹してて自己主張してないんだけど...。ホント、スチュワートのドラムは個性強いなぁ〜...(苦笑)。だから、最近リリースされたスチュワートの新バンド、オイスターヘッドの1stアルバム聴いて、スチュワートさまのドラムが全然目立たないのは。ある意味衝撃でした(苦笑)。いくら組んだ相手が、プライマスのレス・クレイプールと、フィッシュのトレイ・アナスタシオという曲者ぞろいっていっても、「時代は変わった...」という感慨は拭えなかった...(苦笑)。
 ええっと、本来主役であるハズのデボラのソロの内容に触れときましょうか?(笑)。彼女がこのソロで演ってる曲は、基本的にどこか広々とした草原や牧場を思わせるのどかなものが多いです。デボラの演ってる音楽を、フォークに分類してるの見たことありますけど、この音なら納得ですね(笑)。デボラ自身の歌も上手いし声もよく伸びます。だから、スチュワートさまの参加云々は関係なく愛聴してました。“My Favorite Joe”と“Tired And True”は明るく清々しい草原のイメージ。“Siamese Twins”が一番フォークっぽくて、“Dog And Pony Show”と“Washingtown Square At Night”はスロウなバラード。“Get Out Of Dodge”は(今は解散した)トード・ザ・ウェット・スプロケットのグレン・フィリップスがゲスト・ヴォーカルで参加してるロックっぽいナンバー。他にも、ヴァイオリン入ってムーディーな“House Of Volunteers”など聴きどころ多いッス。日本語でいうところの『視力2.0』(笑)っていう意味の“20/20 Vision”と、オープニング曲“My Favorite Joe”、“Tired And True”、そして“We Don't Need A Reason”ではスチュワートがタイコ叩いてて、すぐにそれと解ります(笑)。“We Don't Need A Reason”にはスタンリー・クラークまで参加してて、アニマル・ロジック再結成状態(笑)。最後の曲が“All My Friends Are Leaving”っていうのは意味深だよなぁ〜...。
 デボラ・ホーランドはこの後、1920年代の大恐慌時代の流行歌のカヴァー曲集『The Panic Is On』を1997年にリリース、ここ日本でも一部で話題になってました。この頃になるとアニマル・ロジックのことはもう忘却の彼方なのか、『MUSIC MAGAZINE』の輸入盤レヴューで「素性の知らない女性シンガー」扱いされてました。「他の作品も聴いてみたい」とか書かれたりして(笑)。私が『The Panic Is On』買った松本WAVEのPOPのタタキでも「素性の知らない女性シンガー」扱いされてたし(苦笑)。その後、もう1枚『Book Of Survival』(1999年)をリリースし、今もシーンで頑張ってます(笑)。

●Deborah Holland Discography
『Freudian Slip』(1994 : Dog & Pony/Bugle 7971 18001 28...廃盤)
『The Panic Is On』(1997 : Gadfly 231)
『Book Of Survival』(1999 : Gadfly 257)

(2001.12.16)

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