神様も祝福!
ブレイク・ベイビーズ再結成

 去年のうちから何かと話題になっていたブレイク・ベイビーズの再結成アルバム盤『ゴッド・ブレス・ザ・ブレイク・ベイビーズ』がようやくこの3月にリリースされた! ジュリアナ・ハットフィールド(vo., b.)、ジョン・P・ストローム(g., vo.)、そして今は『フリーダ・ラヴ・スミス』と名乗ってるフリーダ・ボナー(ds.)の3人が10年ぶりに届けてくれた音の贈り物。もう去年のうちにレコーディングじだいは済んでいて、後はリリースしてくれるレコード会社を捜すのみ...という状態になってたんだけど、無事、現在ジュリアナが所属する『Zoe』からリリースされました。
 で、この10年ぶりのアルバム、大傑作!!! 10年前までの彼女たちの音には無かったものが発見出来たして、個人的には大絶賛したいんだけど。
 私がブレイク・ベイビーズを知ったのは御多分に漏れず、ジュリアナがソロで活躍し始めてから。すなわち、バンド存命中にリアルタイムで聴いてないんだけどね。私が初めてブレイク・ベイビーズ聴いたのは、アルファ・レコードが『Mammoth』レーベルの日本で発売権を得て、ジュリアナのソロとブレイク・ベイビーズのアルバムの日本盤を次々とリリースした'93年...の翌年(笑)。'94年の年明け早々に、リリースされたばかりのベスト盤『イノセンス・アンド・エクスペリエンス』の輸入盤を買って聴いたのが最初。もうその頃にはすっかりジュリアナのファンになっていて彼女の過去の音に興味があったから、これはもう当然の流れとさえいえる(笑)。「他のアルバムも、歌詞のある日本盤で聴こうかな」と思ってた矢先、'94年春に例の『アルファ・レコードの変』が起こって(笑)、『Mammoth』レーベルの日本盤は、発売から1年...ブレイク・ベイビーズの作品に至っては発売から半年も経たないうちに...全部廃盤...。つい先日までレコ屋の店頭に並んでたCDがある日を境に一斉に消えた衝撃は今でも鮮明!だったりする 次に『Mammoth』レーベルの日本での発売権を得たポリスターはジュリアナのバック・カタログとブレイク・ベイビーズの作品の再発を検討してたらしいんだけど、今度はジュリアナと『Mammoth』がケンカ別れしてしまい、それらの日本盤リリースが見送りになっちゃった...。ブレイク・ベイビーズの音楽じたいの話よりも、レコード会社とのゴタゴタの話ばかりしてしまったけど、要はそういう余計なトラブルが続いて、今まで日本では正当に評価される機会が失われてきたんだよね、ブレイク・ベイビーズの音楽は。


昔のブレイク・ベイビーズ。左からフリーダ、ジョン、そしてジュリアナ。

 英国の詩人で画家でもあったWilliam Blake (1757~1827) の子供たちを標榜...このいかにも学生らしい名前をもったアメリカのボストンを拠点とするバンドが結成されたのは1985年のこと。ブレイク・ベイビーズのメンバーというと誰もがジュリアナ、ジョン、そしてフリーダの3人を思い浮かべるけど、最初はセス・ホワイトというベーシストが居た4人編成で、ジュリアナはギター担当だった。学生バンドにありがちな(笑)セスの帰郷に伴い、後任にアンドリュー・メイヤーが参加。彼もほどなく脱退し、その後任にレモンヘッズのイヴァン・ダンドゥがベースで加入したのが1988年のこと。翌年リリースのフル・デビュー・アルバムの約半数にイヴァン在籍時の音源が使われてる。やがて、レモンヘッズとの掛け持ちがキビシくなってイヴァンがバンドを離れ、ジュリアナがギターからベースに転向。ここでようやくジュリアナ・ハットフィールド(vo., b.)、ジョン・P・ストローム(g., vo.)、そしてフリーダ・ボナー(ds.)の編成が固まった。以後、1991年の解散までこのメンツで活動を続けることになる。
 ブレイク・ベイビーズの音楽の魅力といったら、まず、やっぱり『超ロリータ声』のジュリアナの歌声(笑)。どんなタイプの楽曲であろうと、彼女の声が乗ると涼し気で爽やかなほうに方向性が決まってしまうね(笑)。そして学生バンドの延長線上にあるための青臭さ。「私たち、青春真っただなか!」と高らかに宣言してるかのような青さが、彼女たちの音からは臭ってくる(笑)。これに加えて、昔のブレイク・ベイビーズにはどこか醒めた感覚が漂ってた。この醒めた感覚はジュリアナのソロ『ヘイ・ベイブ』と『ビカム・ホワット・ユー・アー』でも味わえるので、ブレイク・ベイビーズ固有の音というよりも、これらのアルバムのプロデュースを手掛けたゲイリー・スミスの仕業かもしれないけど。
 ブレイク・ベイビーズは、ジョンが、シンガー、そしてソングライターとしての自分自身の可能性をもっと追求したい!...と思い始めたことによって崩壊した。確かにバンド末期にはジョンのヴォーカルの曲が増えたからね。そしてバンドはジュリアナのソロと、ジョンとフリーダのデュオ、アンテナに分裂...。ジュリアナはそのまソロで活躍を続ける一方、アンテナ崩壊後のジョンとフリーダももそれぞれ自分の道を歩んでた。そして...。
 2000年の春に突然、飛び込んで来たニュース。「ブレイク・ベイビーズ再結成」!!! 再結成っていっても、彼女たちの場合は『同窓会』といった趣で、このまま永続的に一緒にバンドを続ける気はないようだけど。この『同窓会』には、かつてのメンバーで「今は暇人?」レモンヘッズのイヴァン・ダンドゥや、フリーダの今の相棒、ジェイク・スミスも参加してる。そしてようやく届いた再結成アルバム『ゴッド・ブレス・ザ・ブレイク・ベイビーズ』の肝心の中身はというと...大傑作! 10年近くそれぞれが独自の道を歩いてキャリアを積んでたぶんがキッチリと音に現れてる。昔の彼女たちの音には単調さもついて廻ってたんだけど、ヴァラエティーに富んだ楽曲群にまず驚く。昔は作曲面ではバンドに寄与してなかったフリーダが2曲も書いてるんだから当たり前か(笑)。ジュリアナの歌は昔のまんま『ロリ声』だし、爽やかさ、そして涼し気な感覚もそのままで、あくまで学生バンドの延長線上なんだけど青臭は感じない。『青い』んだけど『青臭くない』とでも言おうか(笑)。で、これが一番の変化であり成長だと思ったのが、彼女たちの昔の音にどこか漂ってた醒めた感覚が完全に消え、代わりに暖かい空気がこのアルバムには流れてるってこと。今までの彼女たちの作品に対してこんなに心暖まる感覚を持ったことは無かった。この再結成アルバムのハートウォーミングな音を聴いて「春だなァ〜」との感慨を持った私。まさしく神様も祝福する再結成。ブレイク・ベイビーズのみなさんは今も青春まっただなかなのでしょう、きっと(笑)。それも『青臭くない』青春。私も今から間に合う?(笑)

ブレイク・ベイビーズの作品紹介

Earwig

(import : Mammoth MR0016-2)
1. Cesspool 2. Dead And Gone 3. Greatful
4. You Don't Give Up 5. Your Way Or The Highway
6. Rain 7. Lament 8. Alright 9. Loose
10. Take Your Head Off My Shoulder
11. From Here To Burma 12. Don't Suck My Breath
13. Outta My Head 14. Steamie Gregg
15. Not Just A Wish
 1989年リリースの1stフルレンス・アルバム。7曲のレコーディングにイヴァン・ダンドゥがベーシストとして参加。『これぞブレイク・ベイビーズの神髄!!!』的な名曲“Rain”の他、青春歌謡的な“Lament”、彼女たちにしてはギターがラウドな“Loose”(ストゥージスのカヴァー)、カントリー&ウエスタン風味の“Not Just A Wish”などの楽曲があるものの、エンディングで曲がテンポアップするのが印象的な“You Don't Give Up”の他、“Alright”や“Don't Suck My Breath”など、翳りを帯びた曲もある。ジュリアナのロリータ・ヴォイスを前面に出した涼し気なギターポップ作品

Sunburn

(import : Mammoth MR0022-2)
1. I'm Not Your Mother 2. Out There 3. Star
4. Look Away 5. Sanctify 6. Girl In A Box 7. Train
8. I'll Taking Anything 9. Watch Me Now, I'm Calling
10. Gimme Some Mirth 11. Kiss And Make Up
12. A Million Years
 1990年リリースの2ndにして、最後のフル・アルバム。基本的に前作の延長線上にあるサウンドだけど前作ほど涼し気な印象は受けない。翳りを感じる曲は“Watch Me Now, I'm Calling”くらい。全体的にどこか醒めてるけど、前向きな力を感じる曲が多いッス! ハードなオープニングからカワユいエンディングに変化する“I'm Not Your Mother”が個人的には好き。“Girl In A Box”はジョンがリード・ヴォーカル、“Train”はジョンとジュリアナのツイン・ヴォーカルの曲。

Innocence And Experience

(import : Mammoth MR0058-2)
1. Wipe It Up 2. Rain (Demo) 3. Boiled Potato
4. Lament 5. Cesspool 6. You Don't Give Up
7. Star (Demo) 8. Sanctify 9. Out There
10. Girl In A Box 11. I'm Not Your Mother
12. Temptation Eyes 13. Downtime
14. Over And Over (Live)
 1993年にリリースされたベスト・アルバム。このアルバムさえ聴けば、ブレイク・ベイビーズがどういうバンドだったかがよく解る『押さえの1枚』。アンドリュー・メイヤーがベースを弾いてる時代の音源“Boiled Potato”は後にタイトル変更されてジュリアナのソロ・シングルに収録。“Downtime”はジョンがリード・ヴォーカルの曲。完成品とはまた違った魅力がある“Rain”のデモ・ヴァージョンと、'60年代のバンド、グラス・ルーツのカヴァー曲“Temptation Eyes”が個人的には大好き。ライヴ音源の“Over And Over”は、これが録られた時点でのニール・ヤングの最新作『傷だらけの栄光』収録曲のカヴァー。

God Bless The Blake Babies

(国内盤 : メルダック MECI-2001)
1. Disappear 2. Nothing Ever Happens
3. Baby Gets High 4. Waiting For Heaven
5. Until I Almost Died 6. Picture Perfect
7. When I See His Face 8. What Did I Do
9. Brian Damage 10. Civil War 11. Invisible World
12. On
 11年振りの『同窓会』アルバム。オープニングの“Disappear”のギターイントロから名盤の雰囲気漂うポップさ。爽やかな“What Did I Do”など暖かみあふれるポップな曲が多いのが特徴。スロウな“Baby Gets High”はMadder Roseのカヴァー曲。“Nothing Ever Happens”と“When I See His Face”はフリーダが持ち寄った曲で、“When〜”にはジェイク・スミスが参加。“Picture Perfect”と“Invisible World”はジョンがリード・ヴォーカル、“Brian Damage”ではイヴァン・ダンドゥとジュリアナがツイン・ヴォーカルをそれぞれ披露してる。

忘れちゃいけないE.P.たち

Nicely, Nicely [EP]

(import : Mammoth 980086)
1. Wipe It Up 2. Her 3. Tom And Bob
4. A Sweet Burger 5. Bye
6. Let Them Eat Chewy Granola Bars 7. Julius Fast Body
8. Better N' You 9. Swill And The Cocaine Sluts
 セス・ホワイトなるベーシストが居て、4人編成だった頃の1987年リリースのデビューEP。ジェリアナがギター担当。“Better N' You”は後に再レコーディングされ、“Rain”として世に出た曲。 

Rosy Jack World [EP]

(import : Mammoth 980025)
1. Temptation Eyes 2. Downtime 3. Take Me
4. Severed Lips 5. Nirvana
 1991年にリリースされたこのEPをもって彼女たちは解散。別々の道を選ぶことになる。“Severed Lips”はダイナソーJR.のカヴァー曲。“Nirvana”は当時ジュリアナが大好きだったシアトルのトリオ編成のバンドへのオマージュを示した曲で、後にジュリアナのソロ『ヘイ・ベイブ』に再録されている。

アンテナ
 ブレイク・ベイビーズ解散後、ジョン・P・ストロームとフリーダ・ボナーの2人はアンテナを結成。2枚のアルバムとEPを1枚残す。
『Sway』('91 ; import : Mammoth 30)
『Hideout』('93 ; import : Mammoth 46)
『For Now』('93 ; import : Mammoth 54)...EP

ジョン・P・ストローム
 アンテナ解散後、ソロ活動開始。

JOHN P. STROHM--Vestavia

(import : Flat Earth FECD-113)
1. Wouldn't Want To Be Me 2. Home
3. Better Than Nothing 4. Drive-Thru 5. Jesus Let Me In
6. Ballad Of Lobster Boy  7. Eva Braun 8. For A While
9. Sylvia 10. In Your Dreams 11. Mission Dolores
12. Edison Medicine
 前作『Caledonia』もそうだったけど、この1999年リリースのジョンのソロ作品も土着的というか、土の匂いがするロック作品。オルガンふうのキーボードが入るオープニング曲“Wouldn't Want To Be Me”はフーターズ的、“Better Than Nothing”はジョン・クーガー・メレンキャンプの“Small Town”そっくりだし、“Jesus Let Me In”はボブ・ディランの“Like A Rolling Stone”だし、“Eva Braun”はミッシェル・ポルナレフの“シェリーに口づけ”(笑)とさえ言える(笑)。ジョンの歌声じたいは青いけど、ブレイク・ベイビーズ時代よりもかなりシブめの音楽を演っている。“Mission Dolores”は前作『Caledonia』に隠しトラックで収録されてた曲。

 その他の作品
JOHN P. STROHM AND THE HELLO STRANGERS『Caledonia』('97 ; import : Flat Earth FECD-106)。

フリーダ・ラヴ(フリーダ・ボナー)
 アンテナ解散後、ジェイク・スミスらと、ミステリーズ・オブ・ライフを結成。

THE MYSTERIES OF LIFE--Keep A Secret

(import : RCA 7863-66725-2)
1. Hesitate 2. Going Through The Motions 3. Alibi
4. Feel My Way 5. Into The Light  6. Gone Beyond
7. Once In A While 8. Shaking 9. On My Side
10. Kira's Coming Over 11. Unmet Friend
12. Heaven Sent 13. I Guess I'm In Luck
14. Keep A Secret
 フリーダ・ラヴがアンテナ解散後に組んだ4人組のバンド、ミステリーズ・オブ・ライフが1996年にリリースしたデビュー・アルバム。ジェイク・スミス(vo., g.)を中心としたギター・ポップ・バンド。メンバーにチェリストが居るのが特徴といえば特徴だけど、ジェイクのヴォーカルもジョンと似た感じで、この辺の男声ギタポ・バンドはみんな同じように聴こえるねえ(笑)。なんとまあ、メジャーのRCAからのリリース!

 その他の作品
『Focus In The Back Ground』('97 ; import :Flat Earth 108)...EP
『Anonymous Tip』('97 ; import : Flat Earth 67552)...EP
『Come Clean』('98 ; import : RCA 67946)

ジュリアナ・ハットフィールド
 ジュリアナについては、別項で大々的に特集を組んでますんで(笑)、こちらへ→

(おまけ)スター・ハスラー
 ジュリアナの実兄、ジェイソン・ハットフィールドのバンドで、本来ならばブレイク・ベイビーズ特集でとり上げる筋合いのものではないんだけど、こういう機会でもないと、触れること無いしなァ〜(笑)。ジョンが参加してるんで、まるっきり無関係ってワケではありません(笑)。

STAR HUSTLER--Mendicant

(import : Dirt drt018)
1. Six Weeks 2. The Hazard 3. Seven Sisters
4. Slumberlust 5. Her Shovel 6. Roadside Farmer
7. Party On The Cliffs 8. Lupinus Beargrass Blues
9. Morgan's Cross 10. Mattress Man
11. Grandfather Chair 12. Nesting Ground
13. Drawning 14. The Blinds
 ジェイソン・ハットフィールド(vo., g.)率いるバンド(プロジェクト?)、スター・ハスラーが1995年にリリースした(今のところ)最初で最後のアルバム。“Six Weeks”にジョン・P・ストロームがドラム(!)で参加してる。“Nesting Ground”と“Drawning”の2曲のバック・ヴォーカルでロリータ・ヴォイス聴かせてるのは妹サン?...と思ったら、ジュリアナと同じバークレー音楽院声楽科出のメアリー・ルー・ロード!!!(笑)。7+4の変拍子展開を聴かせる“The Hazard”や“Seven Sisters”での伝統的ギター・ソロに代表されるように、ジュリアナたちよりちょっと王道寄り?とも思うけど、ジェイソンの声質がジョンに似てることもあって、ジョンのソロと同様の枯れた味わいもアリ。個人的には“Grandfather Chair”が好きだな。
 ところで、このアルバムがリリースされた時、「ジャケットがクィーンの『世界に捧ぐ』のパロディでトホホ...」ってことで、不当に低く評価されてたけど、こちらのほうがオリジナルで、クィーンのほうがパロディなんだって!(笑) '53年にとあるSF雑誌に載ったこの絵をパロったのがクィーンで、オリジナルの絵の使用許可を得てジャケットに使用したのがジェイソンたちなのッ!

(2001.4.13)

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