変身したバミューディアン・マーメイドの『足跡』を追う

 大好きなヘザー・ノヴァの新作『サウス』を私が手に入れたのは、日本盤が発売になった9月17日よりも4日遅れた9月21日のことだった。ちょうど中津に長期出張中だったからCDを手に入れにくい状況にあったワケ。もう、9月のアタマには彼女のオフィシャル・ページを覗いて、まだリリース前の新作のアルバム・ジャケットを見たんだけど、スカート履いて、ギター抱えて、満面の笑みを浮かべてアルバム・カヴァーに収まるヘザーの姿に、今までこちらが抱いてきた神秘的なイメージが一気に吹き飛んでしまった(苦笑)。あまりのショックに、このサイトの日記にも「私的『2001年ワースト・アルバム・ジャケット』最右翼候補」などと書いてしまったほど(苦笑)。
 で、4日遅れで手に入れた新作『サウス』の音を最初聴いたところ、あまりの変貌にビックリ! プロデュースはいつもどおり(笑)フレックス・トッドがからんでるんだけど、前作『サイレン』と比べると、「ロック」が「ポップス」に変わったくらいの変化。お蔭で、日本デビュー盤『オイスター』のリリース時に彼女を絶賛、以後も支持してきた松村雄策氏が寄稿してる音楽雑誌『rockin' on』にもこの新作がレヴューされなかった。もはや、「ロック」じゃないから...ってことなのか??? 『オイスター』のリリース時の日本縦断プロモーション・ツアー(その名も『天使のうぶげ〜PEEPING TOUR』)の時に、ヘザーよりもチェロのコのほうが可愛い!って話題になり、音楽雑誌『CROSSBEAT』に「お笑い原稿」が載ったその話題の本人、チェリストのナディア・ランマンがこの新作には不参加。ヘザーのアルバムには最初の1枚を除いて全てに参加してて、文字どおりヘザーのパートナーたったハズのナディアの不在にも衝撃にも受けた。いったいヘザーに何が起こったんだ???
 
別項でも触れてるとおり、ヘザー・ノヴァはこのホームページ開設の原点ですから(笑)。彼女の音楽との出合いがなかったら、私はいまだに誰のライヴにも出掛けていないハズ(笑)。となると、膨大なライヴ・リポート群も存在せず、このサイト開設する必要も生じないってことで(笑)。だから、このサイトにとってヘザー・ノヴァは『最重要アーティスト』のひとりです。


『バミューディアン・マーメイド』のいろんな表情

ここで渦中の人、ヘザー・ノヴァの足跡をたどる
 ここで、初めてヘザーのことを知ったひとに向けて、彼女の略歴を紹介します。1968年7月6日、英領バミューダ諸島生まれってことだから、『ロック世代』な私より1つ歳上(笑)。かつて建築家だった父親が造ったボートの上で、バミューダ海域を転々としながら成長したという異色過ぎる育ち方しとります。ひと昔前に、日本でも「家付き筏(いかだ)」造って摘発されたオッサンが居ましたがあのようなモノを想像すればいいんでしょうか?(笑) 19歳でアメリカ本土に渡りアート・スクールに通うようになるまで、彼女はそのような海上漂うボートの上で育ってたようです。
 アート・スクールで映画製作を学ぶうちに、音楽と詩に興味を持ち始めたヘザーは渡英します。そこからアーティスト、ヘザー・ノヴァの歴史はスタート。

Glow Stars

(import : V2 VVR1001982)
1. Bare 2. My Fidelity 3. Spirit In You 4. Shell
5. Glow Stars 6. Ear To The Ground 7. Second Skin
8. Mother Tongue 9. All The Way
 10. Frontier
11. Shaking The Doll 12. Talking To Strangers
 これがヘザーが'93年にリリースしたデビュー盤。日本では'96年に『来日記念盤』としてリリースされた。このアルバムではまだ後にヘザー・ノヴァ・サウンドの核となるチェロは存在しておらず(“Shaking The Doll”にヴァイオリンが入るのみ)、ギターとキーボードとヘザーの歌でシンプルに進んでいく。ただ、彼女が後に発表する作品と比べて内向的で、海のような開放感はあまり受けない。どの作品よりも『翳り』を通り越して『暗い』かも...。“Shaking The Doll”なんかはアブナさも感じられる(苦笑)。プロデューサーは、この後のどの作品にも大きく関わりを持つフレックス・トッド。

Blow

(import : Big Cat ABB57CD)
1. Light Years 2. Sugar 3. Maybe An Angel 4. Blessed
5. Mother Tongue 6. Talking To Strangers
7. Shaking The Doll 8. Frontier 9. Doubled Up
 1994年にリリースされたライヴ録音盤で、前作『グロウ・スターズ』とは違い、バンドで演奏されているため、前作にも収められている“Mother Tongue”などはヘヴィーな仕上がりになっていて、別の曲と見紛うほどの変貌ぶり。チェロも加わり、ヘザー・サウンドの原形が完成。一部収録曲にチェリスト、ナディア・ランマンが参加。収録曲の約半数は後のワールドワイド・デビュー作『オイスター』にも収録されていて、ここで聴ける「原石」と後の「完成品」の聴き比べも面白いかも。

Live From The Milky Way

(import : Big Cat/Work OK 67046)
1. Maybe An Angel 2. Throwing Fire At The Sun
3. Talking To Strangers 4. Sugar 5. Walking Higher
6. Verona
 1995年のワールドワイド・デビュー前に「顔見せ」的にリリースされたミニ・ライヴ・アルバム。“Talking To Strangers”以外の曲はみんな『オイスター』に収録されている。前のライヴ盤にあったアングラ臭は無くなったものの、依然、神秘的な魅力をふりまいている。

Oyster

(import : Big Cat/Work OK 67113)
1. Walk This World 2. Heal 3. Island
4. Throwing Fire At The Sun 5. Maybe An Angel
6. Sugar 7. Truth And Bone 8. Blue Black
9. Walking Higher 10. Light Years 11. Verona
12. Doubled Up
 1995年のワールドワイド・デビュー盤で、日本でのデビュー作。当時のミュージック・シーンはアラニス・モリセットの大ブレイク直後で女性シンガーの青田買い状態になっていたけど、そのなかでも群を抜いて神秘性をたたえていたのが、ヘザー。バミューダ諸島近海を漂うボートハウスの上で育ったという彼女の経歴も話題に。そこでレコード会社が付けたキャッチ・コピーが『バミューダのスーパー・マーメイド』(笑)。よく「海のリズムを持つひと」って形容されてるけど、ここで聴かれるのは『荒れた海』。明るい“Truth And Bone”と“Blue Black”、澄んだ感じの“Doubled Up”以外はみんな独特の翳りが感じられるんだけど、その『翳り』こそがヘザーの魅力。ナディアのチェロもその翳りに見事に加担してました(笑)。

Maybe An Angel (EP)

(廃盤)
1. Maybe An Angel (Single Version)
2. Blue Black (Live In Tokyo)
3. Walk This World (Live In Osaka)
4. Heal (Live In Fukuoka)
5. Like A Hurricane (Live In Hiroshima)
6. Truth And Bone (Live In Sapporo)
7. Doubled Up (Live In Sendai)
8. Walking Higher (Live In Nagoya)
 “Maybe An Angel”のシングル・エディット・ヴァージョンに、『オイスター』のプロモーションの一環として日本縦断ツアー(その名も『天使のうぶげ〜PEEPING TOUR』)をした時に収録した音源をプラスした日本独自企画盤。東京で収録された“Blue Black”はバンド演奏。その他のライヴ音源はすべてチェリストのナディアと2人での演奏。“Like A Hurricane”は言わずと知れたニール・ヤングの名曲。“Doubled Up”で手拍子する仙台の観客、君たちは素晴らしい!!!

Siren

(国内盤 : V2 V2CI-0002)
1. London Rain (Nothing Heals Me Like You Do)
2. Blood Of Me 3. Heart And Shoulder 4. What A Feeling
5. Valley Of Sound 6. I'm The Girl 7. Winterblue
8. I'm Alive 9. Widescreen 10. Paper Cup 11. Avalanche
12. Make You Mine 13. Ruby Red 14. Not Only Human
 1998年リリースの3rd。前作の延長線上のサウンドにありながら、前作で「森田童子的」とさえ呼ばれた暗さは払拭され、明るく凪いだ海を思わせる。が、ときどき穏やかな海も翳るけど...(笑)。不運なことに日本ではレコード会社の移籍が重なり、プロモーションも殆どされず、悲しいくらい存在感が薄かった...。U2の“With Or Without You”そっくりなイントロで始まる“Heart And Shoulder”や、ドン・ヘンリーの“The Boys Of Summer”を思わせる“Winterblue”など注目曲多し。一番のオススメ曲は“I'm The Girl”。♪I'm Joan of Arc〜I'm the girl next door〜...。

Wonderlust (Live)

(import : V2 WR1013242)
1. Winterblue 2. Walk This World 3. Island
4. Heart And Shoulder 5. Paper Cup 6. London Rain
7. Not Only Human 8. Doubled Up 9. Truth And Bone
10. I'm The Girl 11. Heal 12. Make You Mine 13. Sugar
14. I'm On Fire
 2000年にリリースしたライヴ・アルバム。『オイスター』と『サイレン』の2枚からのベスト盤的な選曲になっていて、これからヘザーを聴こうとする入門者に最適!!! “I'm On Fire”は'96年の来日時にも演奏してたブルース・スプリングスティーンのカヴァー。

South

(国内盤 : V2 V2CI-113)
1. If I Saw You In A Movie 2. Talk To Me
3. Virus Of The Mind 4. Like Lovers Do 5. Waste The Day
6. Heaven Sent 7. It's Only Love 8. I'm No Angel
9. Help Me Be Good To You
10. When Somebody Turns Trust You On
11. Gloomy Sunday 12. Tasted 13. Just Been Born
 前作から3年の沈黙を破り、2001年にリリースした最新作。あまりの変貌に驚く。まず、ジャケットの明るさに(苦笑)。そして、彼女のサウンドの核でありトレード・マークであるチェロの排除に...。ナディア・ランマンはもう居ない...。前半はフツウのポップスとなんら変わり無い。後半になると穏やかな海も徐々に荒れてきて...いつものヘザーらしい翳りも感じられるけど...。グレン・スコットがキーボードで、ブライアン・アダムス(!)がギター/バック・コーラスで、彷徨のギタリスト(笑)バーナード・バトラーがギターで、それぞれゲスト参加。

 私にとってヘザーの魅力って、一部からは「森田童子並みに暗い」などと理不尽な言い掛かりをつけられたりした、独特の『翳り』。そして彼女が故郷のバミューダ諸島で育っていくうちに身に付けた海のような『開放感』。『翳り』と『開放感』...この相反するような2つが同居してるところにヘザーのサウンドの面白さがあったのに。そして、この相反する2つを結び付けてたのが、ナディアのチェロだったんじゃないのかなぁ...。勿論、透明な感触のあるヘザーのハイトーン・ヴォーカルも好きだよ(笑)。
 この問題作(笑)『サウス』をよく聴き込んでいくと、“Heaven Sent”や“It's Only Love”、“Help Me Be Good To You”には翳りが感じられるし、“Gloomy Sunday”、“Tasted”、そして“Just Been Born”...最後のほうの3曲はモロに『今までのヘザー』してる(笑)。何故か中盤以降に固まってるんだよな、従来ふうの曲が。そして一度は「単なるポップス」って切り捨てた(笑)『サウス』の前半部分も、巷あふれる流行モノの売れ線ポップじゃなくって、カーペンターズみたいに時代が進んでも決して古びることがないような佳曲ぞろいです。それこそ海のような『開放感』がたっぷり存在してるような。
 思うんだけど、ず〜っと海で育ってきたヘザーにとって、陸に上がってからの生活はなにかとストレスの多いものだったろうから、曲が『荒れた』のも解るような気がする。今のヘザーには一切ストレスなるものは存在せず、(彼女にとっての)幸せな生活送ってるんだろうなぁ。この透明感あふれる凪いだ海のようなサウンド聴くと、そう思う。
 「単なるポップスに堕ちた」(苦笑)お蔭で、この新作にはレコード会社もプロモーションに力入ってます(笑)。私の地元のFMとやまでも推薦盤にされとりました(笑)。どうだろう? 『サイレン』よりは売れてるハズだから、1996年以来の来日公演期待しちゃっていいかしら???

(2001.11.20)

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