パンクとメタルの壁に穴を穿つ
ヘヴィー・ロックの失われた預言者たち

 先日、ロストプロフェッツのライヴに行って来た。春のパンクの祭典『PUNKSPRING』のヘッドライナーを務めるため今回来日した彼ら、どうせならついでに単独公演も...となったようで、急遽単独公演が組まれた。ちょうど私の東京出張と日にちが重なったため、幸運にも出張のついでに観ることが出来た。
 私が彼らの音楽を初めて聴いたのは、3rdの『リベレイション・トランスミッション』からと、遅い。その頃には彼らはすっかりパンク・キッズの間で人気バンドになってたけど、私が彼らの存在を知ったのはパンク経由では無く、メタル経由(爆笑〜!!!)。その頃、メタル専門誌『BURRN!』編集部の大野奈鷹美サンが、彼らのことをスキッド・ロウに似た音楽性を持つバンドとして猛プッシュしてたから(苦笑)。私は、ボン・ジョヴィの弟分バンドとしてシーンに登場し、'80年代末から'90年代初頭にかけて絶大な人気を誇ったスキッド・ロウの大ファンというワケではなかったけど、この大野サンのプッシュにより彼らに興味を持ち、3rdを購入。聴いてみたところ、大野サンが言うほどスキッド・ロウに似てるとは思わなかったケド、そのポップでキャッチーな楽曲と、怒濤のような男声コーラスの魅力にすっかりハマってしまった(苦笑)。
 スキッド・ロウは日本では『BURRN!』や『ミュージック・ライフ』といった雑誌に取り上げられ、間違っても『rockin' on』や『CROSSBEAT』などには載らなかったことからも分かるようにメタル・バンドとして扱われてた(ヴォーカルのセバスチャン・バックなんか『rockin' on』で「セバスチャン・バッハ」って表記されてたくらい...苦笑)。ロストプロフェッツは『BURRN!』にも載るけど、『rockin' on』や『GrindHouse』にも記事が載り、『PUNKSPRING』のヘッドライナーを務めてることからパンク・バンドと看做されてる。だけど、『iTunes』でCDトラック・データを取得すると、ジャンルが「Metal」になってるんだよねぇ...(苦笑)。私は、彼らのことをメタルでもパンクでも無い、優れたロック・バンドだと思ってます。
 ここ日本においては伝統的に、あのジャンルも聴く、このジャンルも聴く...といった姿勢は節操のないモノとされていた(?)ので、「メタル」とされていまうとパンク・ファンに背を向けられてしまい、逆に「パンク」とされてしまうとメタル・ファンから無視されてしまいがちでした。だけど、21世紀になってから台頭してきた新しいヘヴィー・ロック・バンドたち...彼らやブレット・フォー・マイ・ヴァレンタイン、アヴェンジド・セヴンフォールドなど...はどちらの層からも支持されてる。これはホント喜ばしいことだと思います。


失われた預言者たち
左からリー・ゲイズ、ステュワート・リチャードソン、イアン・ワトキンス、
マイク・ルイス、ジェイミー・オリヴァー

Lostprophets Discography

The Fake Sound Of Progress

(国内盤 : ソニー EICP-30)
1. Shinobi Vs. Dragon Ninja
2. The Fake Sound Of Progress
3. Five Is A Four Letter Word
4. And She Told Me To Leave 5. Kobrakai
6. The Handsome Life Of Swing 7. A Thousand Apologies 
8. Still Laughing 9. For Sure 10. Awkward
11. Ode To Summer
 2001年にリリースされたデビュー作。
 最近の彼らしか知らない耳で聴くと、あまりのヘヴィーさ/ラウドさにビックリする。2001年という時代を反映してか、スクリーモやターンテーブルのスクラッチ音が入ってるのが微笑しい。もっとも、タイトル曲やメロウな“And She Told Me To Leave”には後の彼らに通じるキャッチーさがあるが...。ギター・リフが印象的な1曲目の“Shinobi Vs. Dragon Ninja”は初期の代表曲。

Start Something

(国内盤 : ソニー EICP-262)
1. We Still Kill The Old Way 2. To Hell We Ride
3. Last Train Home 4. Wake Up (Make A Move)
5. Burn, Burn 6. I Don't Know 7. Hello Again
8. Goodbye Tonight 9. Start Something
10. A Million Miles 11. Last Summer 12. Sway
 2003年にリリースされた、彼らにとって大出世作となる2nd。このアルバムからジャケットに彼らのトレードマークとなるフェニックスが登場。
 1stに続き、スクリーモやターンテーブルのスクラッチ音がある曲が収録されてるものの、3rd以降の彼らの作品につながるキャッチーさが増し、ライヴで観客が(大暴れするよりも)一緒に合唱できるような曲が多くなった。“Last Train Home”や“Wake Up (Make A Move)”、“Burn, Burn”といった楽曲で、今や彼らの特徴といえる怒濤の男声コーラスが聴ける。フィーダーみたいに聴こえる“Sway”は、異色曲。

Liberation Transmission

(国内盤 : ソニー EICP-635)
1. Everyday Combat 2. A Town Called Hypocrisy
3. The New Transmission
4. Rooftops (A Liberation Broadcast)
5. Can't Stop, Gotta Date With Hate
6. Can't Catch Tomorrow (Good Shoes Won't Save You This Time)
7. Everybody's Screaming!!!
8. Broken Hearts, Torn Up Letters & The Story Of A Lonely Girl
9. 4: AM Forever
10. For All These Times Kid, For All These Times
11.Heaven For The Weather, Hell For The Company
12. Always All Ways (Apologies, Glances & Messed Up Chances)
 メタリカやモトリー・クルーの作品を手掛けたことで有名なボブ・ロックがプロデューサーを務めた2006年夏リリースの3rd。
 ハードでありつつも、収録された楽曲が親しみ易いキャッチーなメロディーを持つせいか、全般的にポップに聴こえる。本作から、彼らならではの怒濤の男声コーラスがアタリマエとなり、ライヴでの観客大合唱を意図してか、“Can't Catch Tomorrow (Good Shoes Won't Save You This Time)”や“Everybody's Screaming!!!”など一緒に歌える曲が増えた。その一方で、デビュー当時あれだけあったスクリーモは殆ど無くなった。また、ターンテーブルのスクラッチ音もほぼ消滅。

The Betrayed

(国内盤 : ソニー SICP-2347)
1. If It Wasn't For Hate We'd Be Dead By Now
2. Dstryr/Dstryr
3. It's Not The End Of The World But I Can See It From Here
4. Where We Belong 5. Next Stop Atro City
6. For He's A Jolly Good Felon 7. A Better Nothing
8. Streets Of Nowhere 9. Dirty Little Heart
10. Darkest Blue
11. The Light That Burns Twice As Bright
 前作から3年半ぶりにリリースされた、現時点での最新作となる2010年発表の4th。
 ポップな前作の延長線上にありながらも、硬派でリアルな音造りを追求したせいか、ドラマティックでコンセプト・アルバムのような作品に仕上がっており、荘厳さすら感じられる。壁のような怒濤の男声コーラスも健在(“Dstryr/Dstryr”、“Next Stop Atro City”、“For He's A Jolly Good Felon”など)で、特に“Where We Belong”や“Streets Of Nowhere”はライヴで大合唱になりそうな、彼らの新たなアンセム。これほどの力作が、今だアメリカでリリースされないのは、何故...?

(2010.4.24)

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