理想の世界を歌い続ける泣き笑いせつなポップ3人組

 私が「泣き笑いせつなポップ」(デビュー・シングル“SAKURA”帯タタキなどにみられるコピー)の男女混成3人組・いきものがかりのことを知ったのは、2006年の年末。このホームページの年末年始恒例企画『2006年なんでもTOP10』でいつものように「カヴァー曲(邦楽編)TOP10」(この年は実際には「TOP30」になってしまったケド...苦笑)をやるため、2006年にリリースされたカヴァー・ソング情報をイロイロ集めてた。その集まった情報のなかに、いきものがかりの“卒業写真”(荒井由実のカヴァー、シングル“SAKURA”カップリングと“木綿のハンカチーフ”(太田裕美のカヴァー、シングル“HANABI”カップリング))があった。これらのカヴァー曲を聴いたのが、私が彼らの音楽に触れるキッカケだ。これらのカヴァーは特段面白いモノでは無かったけど、「いきものがかり」という風変わりな名前をもつ、女性1人+男性2人の3人組のことがアタマのなかにインプットされたのは間違い無い。
 翌2007年の春、彼らがデビュー・アルバム『桜咲く街物語』をリリースした時、発売日に即購入(爆笑〜!!!)。彼らの編成にGO!GO!7188に近い匂いを感じとり、興味を持ったからだが、私の嗅覚には間違いは無かったようで、GO!GO!7188のターキーがドラムで参加してる曲(“うるわしきひと”)があるし、シンガーが曲の歌詞を自分自身では書かない...という共通点もあった(彼らの曲の歌詞を書いてるのは、リーダーの水野良樹(g.)と山下穂尊(g., harmonica)である)。聴き込んでいくうちに、男性メンバーが書いた歌詞と曲を女性シンガーに歌わせる...という意味において、GO!GO!7188よりもジッタリン・ジンに近いことが判明(笑)。元々私はジッタリン・ジンのファンクラブ『ジッターズ』の会員やってたくらいジッタリン・ジンの音楽に入れ込んでおり、ジッタリン・ジンと同じような空気を醸し出している いきものがかりの魅力にハマるにはさほど時間は要しなかった(苦笑)。話は外れるけど、私がジッタリン・ジンにハマったのは、バッド・レリジョンやオフスプリングと同じメロコアのリズムを持ってるから。バッド・レリジョン→オフスプリング→ジッタリン・ジン→いきものがかり...自分でみても、凄い音楽変遷だと思うよ(苦笑)。
 このサイトのほかのページで私はこれまで何度も主張してるけど、彼らの“コイスルオトメ”という曲は、男性が「好きな女性にこういうふうに恋い慕われたい」という願望というか、理想を絵に描いたような『男にとって都合のよい曲』にしか私の耳には聴こえない。“コイスルオトメ”は男女関係の「理想」を歌ってるとしたら、“KIRA☆KIRA☆TRAIN”は旅立ちの「理想」、2nd収録の“ちこくしちゃうよ”は通学の「理想」(苦笑)を歌ってるように、彼らの歌詞世界は理想や典型的な場面、こうあってくれたらいいようなぁ〜という願望を歌ってるものが多い。ノマアキコが歌詞を書いてユウが歌ってるGO!GO!7188や、破矢ジンタが歌詞を書いて春川玲子が歌ってるジッタリン・ジン同様、情念でドロドロになることも無いし、苦悩にのたうちまわることも無い。そんなドライな歌詞世界と、もともと彼らが活動してたフォーク・フィールド由来の爽快さが混ぜ合わった彼らならではのユニークな音世界がすっかり確立されており、このユニークさに惹かれて私は彼らの音楽にすっかりハマってしまった(苦笑)。
 2ndの『ライフアルバム』までは彼らのサウンドがもつユニークさは保たれていたが、3rdの『My song Your song』からはビミョーに変化が始まった。ひとつは、彼らがメジャーな存在になり、NHKに取り込まれたこと(爆笑〜!!!)。3rdアルバムは『NHK紅白歌合戦』に初登場が決まったタイミングでリリースされたわけだけど、このアルバムからユーモラスな部分を少なくし、シリアスな方向にシフトした...っつうか、それまで以上に理想に走り始めたような気がする(苦笑...この後“YELL”『NHK全国学校音楽コンクール』(合唱コンクール)の中学生の部の課題曲となり、ますますシリアスになった)。ふたつ目には、今まで「シンガーでしかなかった」はずのヴォーカル・吉岡聖恵が初めて自分で作詞・作曲を行ったこと。これによって、シンガーが自分自身で歌詞を書かないからこそ出来た彼らのユニークなサウンドに変化があらわれる恐れが出て来た。ま、今のところ、聖恵はアルバム1枚につきひとつしか曲を書いてないし、聖恵の書いた曲の内容じたいも男性陣の書く歌詞世界を踏襲してるため、サウンドには大きな変化は現れて無いけど...。
 ここまで、この記事は勿論のこと、過去に掲載したライヴ・リポートでも いきものがかりのことを「彼ら」と呼びこそすれ、「彼女たち」とは決して書かなかったのは、いきものがかりのサウンドの鍵を握ってるのはリーダーと山下であり、一般世間でいくら いきものがかりのことを「聖恵とバックの男2人」と看做そうが、『NHK紅白歌合戦』で「紅組」として出場していようが、曲を書かない以上、聖恵は『主』ではあり得ず、『従』でしかないからだ。もし、聖恵が今以上に作詞・作曲を手掛けるようになり、いきものがかりの音楽の指向を自ら司るようになった時には、私は自然と いきものがかりのことを「彼女たち」と呼ぶようになるだろう。ただ、そうなった時には、いきものがかりの音楽がすっかり変化してる気がするんだけどね...。


“茜色の約束”リリース時の いきものがかり
左からリーダー(水野良樹)、吉岡聖恵、山下穂尊

Ikimono-gakari Discography

桜咲く街物語

(国内盤 : EPIC ESCL-2910)
1. SAKURA 2. KIRA☆KIRA☆TRAIN 3. HANABI
4. 君と歩いた季節 5. コイスルオトメ 6. 流星ミラクル
7. 青春のとびら 8. ひげなし 9. ホットミルク
10. いろはにほへと 11. うるわしきひと 12. 夏・コイ
13. タユムコトナキナガレノナカデ
14. SAKURA -acoustic version-
 2007年春にリリースされた「泣き笑いせつなポップ3人組」いきものがかりのデビュー・アルバム。本作リリース前に発表済みのシングル曲“SAKURA”、“HANABI”、“コイスルオトメ”、“流星ミラクル”、“うるわしきひと”とその両A面扱いの“青春のとびら”の5曲を収録し、デビュー作からして早くもグレイテスト・ヒッツ的なアルバム。フォーク・ユニット出身らしい青臭い歌世界をそのままエレキ化&バンド・サウンド化する..というこのアルバムで確立した手法は、以後の作品でも基本的に踏襲されていくことになる。
 ライヴのつかみや盛り上げどころで披露される“KIRA☆KIRA☆TRAIN”、“ホットミルク”など定番曲を収録。リーダーもリード・ヴォーカルを取る“夏・コイ”からは、結成当時の彼らの音が窺える。今の耳で聴くと、聖恵のヴォーカルが堅いように聴こえるケド...(苦笑)。

ライフアルバム

(国内盤 : EPIC ESCL-3046)
1. Good Morning 2. 茜色の約束 3. 夏空グラフィティ
4. 青春ライン 5. @miso soup 6. ソプラノ
7. 花は桜 君は美し 8. ちこくしちゃうよ
9. 心一つあるがまま 10. ニセモノ 11. 東京猿物語
12. 月とあたしと冷蔵庫 13. 茜色の約束 -acoustic version-
 前作リリースから約1年後の2008年2月発表の2nd。前作リリース後にリリースされたシングル曲“茜色の約束”、“青空グラフィティ”、“青春ライン”、“花は桜 君は美し”を収録してるほか、モータウン・サウンドを意識したかのような“@miso soup”、自転車の警笛のS.E.がさわやかな“ちこくしちゃうよ”、ダークな印象で痛々しい“ニセモノ”、ライヴで観客みんなが一体となって盛り上がることを最初から意図して書いたかのような曲“東京猿物語”など、楽曲のヴァリエーションが広がった。“月とあたしと冷蔵庫”は、インディーズ時代からライヴの定番だった曲。

My song Your song

(国内盤 : EPIC ESCL-3146)
1. プラネタリウム 2. 気まぐれロマンティック
3. ブルーバード 4. スパイス・マジック 5. かげぼうし
6. 帰りたくなったよ 7. message 8. Happy Smile Again
9. くちづけ 10. 僕はここにいる 11. プギウギ 12. 幻
13. 心にある花を咲かせよう
14. 帰りたくなったよ -acoustic version-
 2008年の年末に早くもリリースされた3rd。
 2008年の『紅白歌合戦』に初出場することも決まり、一般大衆の間で支持を広げてた頃に発表され、遂に初のオリコン・アルバム・チャートNo.1を獲得! これで、ますます知名度と支持が広まった。基本的な音楽性には変化は無いものの、前作の“東京猿物語”や“ちこくしちゃうよ”のようなユーモアのある楽曲が少なく(“プギウギ”くらい)、全般的にシリアスな印象を受ける。
 吉岡聖恵が作詞・作曲を手掛けた曲(“僕はここにいる”)がこのアルバムで初めて登場!

ハジマリノウタ

(国内盤 : EPIC ESCL-3354〜5)
1. ハジマリノウタ〜遠い空澄んで〜 2. 夢見台
3. じょいふる 4. なくもんか 5. YELL 6. 真昼の月
7. ホタルノヒカリ 8. 秋桜 9. ふたり -Album version-
10. てのひらの音 11. How to make it 12. 未来惑星
13. 明日へ向かう帰り道
 前作から1年後の2009年末にリリースされた4th。
 『NHK全国学校音楽コンクール』(合唱コンクール)の中学生の部の課題曲となった“YELL”の影響で、ますます中学・高校生の間で絶大な人気を誇るようになり、2年連続の『紅白歌合戦』の出演も決めた彼ら、当然のようにこのアルバムも2作連続のオリコン・アルバム・チャートでNo.1を獲得。
 TVCFで使われた“じょいふる”を除き、前作と同じシリアスな作風で、前作とこのアルバムの曲をシャッフルして聴いたら、どっちがどのアルバムか分からなくなりそう(苦笑)。このアルバムも、吉岡聖恵が作詞・作曲を手掛けた曲(“未来惑星”)を収録。
 デビュー・アルバム以来、ボーナス・トラックとしてアルバム収録曲のアコースティック・ヴァージョンを入れるのが約束になってたけど、このアルバムではそれを止めてしまった。

Others

SAKURA (国内盤 : EPIC ESCL-2803)
 記念すべきメジャー・デビュー・シングル。このシングルでは、荒井由実の“卒業写真”をカヴァーしてる。

HANABI (国内盤 : EPIC ESCL-2823)
 2ndシングル。カップリング曲は、アルバム未収録の“甘い苦い時間”。このシングルでは、太田裕美の“木綿のハンカチーフ”をカヴァー。

コイスルオトメ (国内盤 : EPIC ESCL-2885)
 3rdシングル。カップリング曲は、アルバム未収録の“二輪草”。このシングルのカヴァー曲は、プリンセスプリンセスの“GET CRAZY!”。

流星ミラクル (国内盤 : EPIC ESCL-2897)
 4thシングル。アニメ『天保異聞 妖奇士』の主題歌として使用されたため、初回盤特典として「コラボ蛇腹キャラクターファイル」とステッカーが付いてた。このシングルでは、エレファントカシマシの“風に吹かれて”をカヴァー。他に、アルバム未収録の“雪やまぬ夜二人”も入ってる。

うるわしきひと/青春のとびら (国内盤 : EPIC ESCL-2925)
 両A面扱いとなる5thシングル。このシングルでは、キャンディーズの“春一番”をカヴァーしてる。デビュー・シングルから5枚続けてカヴァーを収録してきたけど、次のシングルからしばらくカヴァー曲を演らなくなった。

夏空グラフィティ/青春ライン (国内盤 : EPIC ESCL-2975)
 これまた両A面扱いとなった6thシングル。このシングルでは、カヴァー曲が無い代わりに、アルバム未収録の“蒼い舟”が入ってる。

茜色の約束 (国内盤 : EPIC ESCL-3012)
 7thシングル。このシングルのカップリング曲は、後に2ndアルバムに入ることになる“心一つあるがまま”と、アルバムには入らなかった“月夜恋風”。

ノスタルジア (国内盤 : EPIC ESCL-3385)
 映画『時をかける少女』の主題歌となった17thシングル。そのつながりか、1983年版映画『時をかける少女』の主題歌だった原田知世の“時をかける少女”のカヴァーを収録。他には大ヒット曲“YELL”の合唱付ヴァージョンを収録。

ありがとう (国内盤 : EPIC ESCL-3438)
 NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』の主題歌になった18thシングル。NHK連続テレビ小説のドラマの主題歌ということで、広く一般に購入してらいたいためか、定価\555(税込み)と破格の安値に設定。そのせいか、この曲とそのインスト(カラオケ)しか入っていない。

 

(2010.6.30/7.1)

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