11月リリースの3rdアルバム『インポッシブル・シャッフル』を引っ提げて4度目の来日ツアーを行ったクラウドベリー・ジャム(以下、CBJ)。私が観に行ったのは2月28日に赤坂BLITZで行われた東京公演2日目。私がCBJのライヴを観るのは'96年7月の東京公演、'97年4月の松本公演に続き、3回目。これだけ足繁く彼らのライヴに通うのは、CBJのライヴに魅力を感じていたからだが、10ヶ月ぶりに再会した彼らが見せてくれたものとは...。
今回のジャパン・ツアーはCBJの5人の他に、アルバムのサウンドをより忠実に再現するため、ホーン・セクションが2人に、ターン・テーブルでスクラッチ音を出す『皿回し』(D.J.)が1人...と3人のサポート・ミュージシャンが参加していた。前もってこの報を知った時から『イヤな予感』がしてたのだが、その『イヤな予感』がより決定的になったのは、会場に足を踏み入れて、ステージ上にセットされているキーボードの周りに、一切ギターが用意されていないのを目の当たりにした時。CBJのキーボード・プレイヤーのヘンリクが、曲によってはギターを構えて、飛び跳ねたりすることは過去2回のライヴ・リポートで報告済みだが、そのヘンリクのギターがステージ上に用意されていないことに、CBJが自分たちの音楽の持つ魅力を自ら放棄してしまったことを危惧した私だったが...。
開演予定時間の6時を少し廻った頃、何の前触れも無くステージ上にドラムのペール・バイストロムが登場。会場を埋める女のコたちからの「ペール。!」という嬌声に、片手を挙げ「Hi
!」と応えてドラムキットについたペールに続き、キーボードのヘンリク、ギターのヨルゲン、そしてベースのペール・ヴァルシンガーとサポート・メンバー3人が登場。そしてさらにワン・テンポ遅れていよいよヴォーカルのジェニーが登場。オープニング曲は新作のアタマを飾る“A
Song That Keep Us
Sane”。ジェニーは紺色の半袖シャツに、青・紺・紫の3色が横縞になっているスカート姿。髪形は前々回観た時のように結わえてるわけでも、前回観た時のようにカーディガンズのニーナのようでもなく、写真で見られる『ふだんのジェニー』のそれだった。曲が終わると、「“Day
After Day”」といちど次の曲を紹介しながら突如「“Do What I Wanna
Do”」と紹介し直したジェニー。“Do What I Wanna Do”の後、 “Keep On
Wishing”を披露し、ここまで新作から3曲続けたところで前作『雰囲気づくり』から“Nothing
To
Declare”をプレイ。この後も新作と2nd『雰囲気づくり』の2枚のアルバムからの曲が次々と披露されていった。
ニュー・アルバムがリリースされたばかりだというのに、もう新しい曲ができたのだろう、8曲目には未発表の新曲を披露してくれたCBJ。
9曲目の“Going
Further”ではサポート・メンバーのD.J.が大活躍。見事なターン・テーブルさばきを見せてくれた。その頃、キーボードのヘンリクはカメラを取り出し、客席に向かってシャッターを切り、その後ジェニーを被写体にシャッターを切り、挙句の果てには「ジェニーとボクを一緒に撮ってくれ」とばかりにカメラを再前列の観客に手渡し、記念撮影してもらってた(笑)。とまあ、サポート・メンバーのD.J.とホーン隊の2人はそれなりの活躍はしていたが、もともとギター・ポップ・バンドのCBJの曲すべてに彼らの出番が用意されていたわけではなく、やはり出番がないことも多いわけで、そんな時サポート・メンバーの3人はタンバリンやマラカスを振ったり、ボンゴを叩いたりしてた。その代わり、いつもライヴの時ジェニーが手にしていたタンバリンが、今回ジェニーの手元には無かった。キーボードのヘンリクがギターを手にすることが無かったのも、サポート・メンバーが3人居てサウンドが厚くなったため、ギターを2本重ねる必要が無くなり、キーボードに専念できるようになったせいだろう。ヘンリクがギターを手にしなかったのは、今回のライヴでプレイされた曲の性質のせいもある。新作『インポッシプル・シャッフル』で披露されてる雰囲気重視の姿勢をライヴの場でも貫くため、キーボードで雰囲気づくりに徹する必要があり、そのためヘンリクはギターを構えなかった...とも捉えられる。このように今回のライヴ、従来CBJの持ち味とされていた「jazzyでオトナの雰囲気だけど体がタテに動く曲」のプレイはナシ。CBJがこれまで持っていた魅力を封印してまで披露した雰囲気重視路線の曲がライヴではどうだったかといえば、“Out
Of
Control”のようにジェニーの深みのあるヴォーカルを堪能できる曲も確かにあった。場内から大きな拍手が起こるほどジェニーの歌は素晴しかった。だけど、上手い歌を聴いて「感心」はしてもそれ以上の「感動」が起こらないのだ、ジェニーの歌は...。勿論、ジェニーの歌の魅力はどこか醒めた感覚、クールネスにあることは判っているつもりだが、3週間前にサラ・マクラクランという名の女性に「情のこもった歌の素晴しさ」を教え込まれたばかりの私には、ジェニーの歌には「上手いなぁ」という感想以上の感慨が一切湧いてこなかった...。『どこか醒めた感じがしてカッコいいジェニー』よりも『自らの出場所であるパンクの系統を引く「jazzyでオトナの雰囲気だけど体がタテに動く曲」を演るリアルなジェニー』を求め、さらには『あくまでもキーボードで雰囲気づくりに徹するヘンリク』よりも『嬉しそうにギターをかき鳴らすヘンリク』を求めてる私と、たぶん私と同じ気持ちになったため異様に盛り下がったファンたちに“One
Munite Of Foolishness”と“ I Think You Should
Know”...去年の松本公演でもプレイされていた2曲...に“Everything You
Are”...といったあくまでも雰囲気重視路線の曲を披露し続けたCBJ。アンコールでようやく“Elevator”や“This
&
That”といった『みんなが求めるCBJ』を披露してくれたが...。ミュージシャンとしてのより高い成長を謀った代償に、大切なモノ...ホントに演りたいことをやる喜び...を失ってしまったかのようなCBJの今回のライヴ。ジェニーたちはこのことに気付いてくれるのだろうか?
【SET LIST】...'98.2.28 赤坂BLITZ
1. A Song That Keeps Us Sane
2. Do What I Wanna Do
3. Keep On Wishing
4. Nothing To Declare
5. Come Back And Stay
6. Day After Day
7. Peace And Quiet
8. ? (新曲)
9. Going Further
10. Roll The Dice
11. That's Alright
12. Out Of Control
13. One Munite Of Foolishness
14. I Think You Should Know
15. Everything You Are
(encore 1)
1. Elevator
2. Let Me Know Why
3. This & That
(encore 2)
1. Some Things Are Better Left To Be
2. Monday's Back In Town