“突然変異”と名付けられた異色の新作『ミューテイションズ』に伴うBECKのジャパン・ツアー。そのうち、4月21日、新宿厚生年金会館での追加公演に私は足を運んだ。
開演予定時間の7時を20分以上押した頃、ようやく会場の灯りが消え、BECK御一行様が登場。BECKは普段着にマントを羽織っただけの姿で登場。歓声渦巻く会場に英語でいろいろ挨拶してからアコースティック・ギターを弾き(さらにアダプター付きのハーモニカを吹き)、歌い始めたBECK。オープニング・ナンバーは新作『ミューテイションズ』より“Cold
Brains”。曲を歌い終わると「アリガト!」と日本語で御礼を言い、始めた次の曲は“Lazy
Flies”。今回のライヴ、『殆ど一発録り』のシンプルなアルバム『ミューテイションズ』のツアーなので、シンプルなバンド編成かと思っていたら、驚いたことに総勢10名(BECK含めると11人)も居る大所帯。ギター、ベース、ドラム、キーボード(元・ジェリーフィッシュのロジャー・マニング)、チェロ、ヴァイオリン(or
ヴィオラ)、ホーン隊2名、そして皿回しのD.J.。これら10人がずっと出ずっぱりという訳ではなく、曲に応じてかなり出入りがあるという贅沢なミュージシャンの使い方をしていた。BECK以外の両隣のギタリストとベーシストは椅子に座りながらの演奏で、アルバム『ミューテイションズ』の作風どおり、肩の力の抜けたほのぼのとした演奏会...といった趣だった。
“Lazy
Flies”が終わると、BECKは傍らに置いてあった紙切れを手にし、ヘンテコな日本語を喋り始めた。「ボクノ
×××ノ、ナカニハ、タクサンノ花ガ咲イテイル」(一部聞き取り不能)。日本語を喋ったBECKに、会場は大いに沸いた。続く“We
Live
Again”の後でもカンニング・ペーパー見ながら「ミンナ、盛リ上ガッテ、イコゼ〜!!!」と日本語喋り、ファンの大爆笑を誘ったBECK、調子に乗って曲が終わるごとに日本語喋る喋る。ローディーのかたがギター交換に来るついでに新しいカンニング・ペーパーを次々渡してくので、BECKの日本語、なかなかネタが尽きず(笑)、“Sing
It Again”の後は「アナタタチハ、美シイ」、“Bottle Of
Blues”の後は「今日ハ日本デ最後ノshowダ。淋シクナルナ」ってな具合。ここで、バック・メンバーはすべてステージを去り、BECKひとりの弾き語りコーナーが始まった。「アルバム『ワン・フット・イン・ザ・グレイヴ』からの曲だ」とのBECKの曲紹介で始まった“Girl
Dreams”が終わるとまたまたカンニング・ペーパーを手にしたBECK。この頃になると、BECKがカンペを手にするだけで、場内から笑いが起こるようになっていた(笑)。
「アナタ達ハ、サワヤカナ飲ミ物ダ」と日本語喋って笑いを誘った後、
カヴァー曲らしき曲を披露した後、会場からの「Rowboat!」という声に応えて“Rowboat”を演ったBECK、“One
Foot In The
Grave”ではおなじみのハーモニカ・ソロを披露し、BECKひとりの弾き語りコーナーは終了。
この後、バック・バンドが戻って来て“O
Maria”をプレイし終わると、「日本でのみリリースしている曲だ」とMCしたBECK、来日記念盤の『ノーバディズ・フォルト・バット・マイ・オウン』収録の“One
Of These
Days”を披露。この期に及んでもBECKは日本語を喋ってみせていたが、日本語を喋る緊張感が薄れたのか『失敗』が多く、意味が分からずイマイチ笑えなかった...(苦笑)。この後、“Dead
Melodies”と“Nobody's Fault But My
Own”をプレイ。そしてヒット曲“Tropicalia”が披露されると、BECKたちはステージを去った。ここまで時間にして50分ほど。終わるにしては早いけれど、これでもう終わりか...と思っていたら、「10分間の休憩に入ります」との場内アナウンスが入った。
10分の休憩が終わり、再びステージに現われたBECKはフリル付きの長袖シャツに着替えていた。バック・バンドはもっと凄く、ベーシストはピンクのパーマ頭のカツラを被るなど、みんな仮装行列みたいなカッコウ。後半はアルバム『オディレイ』からのヒット・パレードのような選曲で、“Novacane”ではBECKはロボットみたいな奇妙なダンスを披露。双眼鏡を持ち出し客席を覗いたり、ムチを持ち出しあちこち叩いてた(笑)。“The
New
Pollution”、映画『普通じゃない』のサントラ収録の“Deadweight”、プリンスばりのファルセットが素晴しい“I
Wanna Get With You, Sister Deborah”と続き、最後は“Where It's
At”。“Where It's
At”で観客が大いに沸いた後、皿廻しのD.J.を残してみんなステージを去り、D.J.(名前はD.J.スワンプ)によるターンテーブル・ソロが始まった。このD.J.スワンプ、(当り前だが)メチャクチャ上手く、ターンテーブル・プレイで、サバイバーの“Eye
Of The
Tiger”(←映画『ロッキー。』主題歌として有名)のイントロや、ディープ・パープルの“Smoke
On The Water”のイントロを演奏してみせた!!! 凄すぎる!!!
D.J.スワンプの華麗な技に観客が大いに沸いた後、ステージにBECKや他のバンド・メンバーが戻って来たのだが...。仮装行列の度合がますますひどくなり、BECKは馬首の被り物をし、ホーン隊のひとりは鹿首の被り物をして登場! 『馬』と『鹿』...。さらにヴァイオリストは虎首の被り物をしていた...。
殆ど『お笑いヴァラエティー番組』状態でプレイされたのは“Devils
Haircut”。曲が終わると、BECKはギターをベーシストの持つベースと『×字』になるようにコスリ合わせて弾き、チェリストとヴァイオリストは譜面台を蹴り倒し、残りのバンド・メンバーはドラム・セットを次々となぎ倒し、破壊してからステージを去っていった(笑)。私の後ろに座っていた『40代親父と10代息子2人』的3人連れの客のうちの『親父』の客は「最高だな!」とこの幕切れを大いに喜んでいた(笑)。
ヘンな日本語で観客の笑いを誘いつつ、静かに進んだ『さだまさし的』な前半と、コメディアンすれすれの『キワモノ的観世物ショー』になった後半。ひとつのライヴで途中でこれだけ極端に様変りするのも珍しい(笑)。間違いなく現在もっとも優れたエンターテイナーであるBECK先生に、私も大いに笑わせてもらった一夜だった。ホント、サイコウ!
【SET LIST】...'99.4.21
新宿厚生年金会館
(SET ONE)
1. Cold Brains
2. Lazy Flies
3. We Live Again
4. Sing It Again
5. Bottle Of Blues
6. Girl Dreams
7. Lampshade
8. Rowboat
9. One Foot In The Grave
10. O Maria
11. One Of These Days
12. Dead Melodies
13. Nobody's Fault But My Own
14. Tropicalia
(SET TWO)
1. Novacane
2. The New Pollution
3. Deadweight
4. I Wanna Get With You, Sister Deborah
5. Where It's At
〜turntable solo〜
6. Devils Haircut