女は強し! スリーター・キニー

 去年、私が観たライヴのなかから、ベスト・ライヴを選ぶとするとそれは文句なくスリーター・キニーの初来日公演。コリン・タッカーのあまりにも真っすぐ過ぎる歌と、ジェネット・ワイスの的確なところにビシバシ決まる壮絶なドラミングに圧倒された私はそれからすっかりスリーター・キニーのファンになってしまいました。そんなスリーター・キニーの約1年ぶりのニュー・アルバム『オール・ハンズ・オン・ザ・バッド・ワン』が4月21日にリリースされました。それを聴いたところ...。
 『スリーター・キニー』といえば、女性解放運動にどっぷり漬かったバンドというイメージが世間では蔓延していて、昔、コリンとキャリーが恋人同士だった事実をつかまえてそのことばかり訊くインタヴューも未だに絶えないけれど、彼女たちがデビュー当時から今に至るまで、一貫してフェミニズムのことばっかり唄っているかといえばそうでもないような気がする。そこで今までの彼女たちの歴史を振り返ると...

Sleater-Kinney

(import : Chainsaw Chsw 12, 国内盤未発売)
 ライオット・ガール・ムーヴメントに触発されて音楽を始めたコリン・タッカー(vo. g.)とキャリー・ブラウンスタイン(g. vo.)の2人が、それぞれが所属するバンドの活動とは別の、あくまでサイド・プロジェクトとして始めたスリーター・キニー。ドラムはオーストラリア在住のローラ・マクファーレン。
 このアルバムでは、怒り爆発の闘う女性の姿勢丸出し。金切り声で叫ぶだけのコリンのヴォーカルにラウド過ぎるギター...アンダーグラウンドなハードコア・パンクが延々と続く。ローラがヴォーカルをとる“Lola's Song”にはホッとする...。
 聴くのは後廻しにしていいアルバム。
1. Don't Think You Wanna 2. The Day I Went Away
3. A Real Man 4. Her Again 5. How To Play Dead
6. Be Yr Mama 7. Sold Out 8. Slow Song 9. Lola's Song
10. The Last Song

Call The Doctor

(import : Chainsaw chsw 13, 国内盤未発売)
 デビュー作と同じメンバーで作られた2ndでは、以前のような金切り声で押し切るのではなく、静かな曲を交えて、緩急をつけるように進化。『はないちもんめ』ができそうなリズムを持つ“I'm Not Waiting”など、ドラムの入れかたやリズムで耳を引く曲が増えてきた。
1. Call The Doctor 2. Hubcap 3. Little Mouth 
4. Anonymous 5. Stay Where You Are 6. Good Things
7. I Wanna Be Your Joey Ramone 8. Taking Me Home
9. Taste Test 10. My Stuff 11. I'm Not Waiting
12. Heart Attack

Dig Me Out

(import : Kill Rock Stars KRS 279, 国内盤廃盤)
 かけもちしていたバンドを解散させ、スリーター・キニーに専念することにしたコリンとキャリー。QUASIのメンバーでもあるジャネット・ワイス(ds.)が加入したこの3rdは米『Rolling Stone』誌で絶賛されるなど、大出世作となった。
 彼女たちのアルバムのなかで一番、ポップ色が強い作品(なにしろ“Dance Song '97”って曲があるんだから)で、初心者にはまず、これをお薦めします。
“The Drama You've Been Craving”のドラマ的展開も、“Words And Guitar”の元気のよさも『買い』。
 なお、アルバム・ジャケットはキンクスの『キンク・コントラヴァーシー』のパロディー。
1. Dig Me Out 2. One More Hour 3. Turn It On
4. The Drama You've Been Craving 5. Heart Factory
6. Words And Guitar 7. It's Enough 8. Little Babies
9. Not What You Want 10. Buy Her Candy
11. Things You Say 12. Dance Song '97 13. Jenny 

The Hot Rock

(import : Kill Rock Stars KRS 321, 国内盤廃盤)
 前作の成功で、ようやく日本盤がリアルタイムでリリースされるようになったスリーター・キニー。このアルバムでのツアーでいよいよ日本公演も実現。
 このアルバムではキャリーがヴォーカルをとるバラード“The Size Of Your Love”を始めとして、“Don't Talk Like”や“A Quarter To Three”といった静かな曲が耳を引く。
 コリンとキャリーが、異なる歌詞を異なるメロディーに乗せて歌う“Burn, Don't Freeze”も面白い。
1. Start Together 2. Hot Rock 3. The End Of You
4. Burn, Don't Freeze 5. God Is A Number 
6. Banned From The End Of The World 7. Don't Talk Like
8. Get Up 9. One Song For You
10. The Size Of Your Love 11. Living In Exile
12. Memorize These Lines 13. A Quarter To Three

All Hands On The Bad One

(国内盤 : P-ヴァイン PVCP-8730)
 リリースされたばかりの最新作。ベルセバ主催の『Bowlie Weekender』に出演した際に受けた嫌がらせがヒントとなった“The Ballad Of A Ladyman”など、闘い続ける悲哀がテーマの曲があるのに、前作にみられた悲愴感など見せないどころか、どこか吹っ切れた明るさまで感じ取れる。1つ壁をブチ破った感のある彼女たちはこの先何処へ行くのか?
 これを聴いてなんとも思わないひとは“You're No Rock N' Roll Fun”と彼女たちに歌われても仕方がない...。

1. The Ballad Of A Ladyman 2. Ironclad
3. All Hands On The Bad One 4. Youth Decay
5. You're No Rock N' Roll Fan 6. #1 Must Have
7. The Professional 8. Was It A Lie ? 9. Male Model
10. Leave You Behind 11. Milkshake N' Honey
12. Pompeii 13. The Swimmer 
14. Maraca(日本盤のみ)

 『ディグ・ミー・アウト』と『ホット・ロック』が、バンダイM.E.の閉鎖のため、国内盤リリースから1年あまりで廃盤扱いとは、悲しいですね...。それはともかくとして...。
 スリーター・キニーについて、男である私が語るのは難しい。「男の僕でも聴いてしまうのは、彼女たちが闘うことの葛藤を歌っているから」などと書こうものなら、「そんなこと書く奴はゴミ!」と返ってくるから(笑...実際『rockin' on』でそんなふうに噛みつかれたひとが居た)。ゴミ呼ばわりされることを承知のうえで書くと、彼女たちの『闘い』の結果がある程度ミエミエで、『勝てないことが判っているのに敢えて闘うことを選んだ悲愴感』が漂っていて、このまま彼女たちを放っておけないって感じがするから...のかな??? 私が彼女たちを支持するのは...(笑)。
 先のハナシに戻るけど、
スリーター・キニーが一貫してフェミニズムに取り組んでいるかというと、それは違うと思う。デビュー作ではそういう理想を勝ち取る気があったかもしれないけど、ある時点から彼女たちは、世界を変えてやる!といった理想から距離を置き、ひとりの人間としてのパーソナルな話題や問題、苦悩をテーマに唄うようになった。そこで唄われていることは、女性だから起こる問題ではなく、人間であるなら誰もが日常的に少しは感じる疑問・苦悩であって、性差を越えた普遍的なテーマを唄っているから、男の私でも彼女たちの音楽を聴いて、支持してしまうんだろう。
 ただ、周囲は相変わらず、彼女たちを『フェミニスト・バンド』呼ばわりしているし、このレッテルが外れる日は多分、来ないだろう。彼女たちもそれを受け入れているようなフシがあるし...。先に書いたように、前作『ホット・ロック』までは『勝てないと予め判っている闘いに挑むような悲愴感』が漂っていたのも事実。そんな彼女たちを「見ちゃいられない!」と全く思わなかったといえば嘘になるな(笑)。やっぱりオレも『ゴミ』か...(笑)。
 新作『オール・ハンズ・オン・ザ・バッド・ワン』リリース前に雑誌『CROSSBEAT』に載ってたインタヴューを見ると、ベルセバ主催フェス『Bowlie Weekender』に招かれた際、ホテルの部屋に『Ladyman』...すなわち『オマエら、女の姿をしたオトコだ!!!』と落書きされ、落ち込んだハナシが出てて、相当にまいっているような印象を受けたが、新作の音のほうを聴いてビックリ!!! 彼女たちの音から悲愴感が払拭されてしまっている...。「アンタみたいなゴミ男の同情なんていらないわ!」とでも言ってるかのような、頼もしさを感じる音に変化してた。間違いなく彼女たちは『闘うことの葛藤』やら『悲愴感』などの次元を越えた新たなレヴェルへと脱却した。壁を乗り越えた。ひと皮剥けた。このアルバムを聴いて、女はたくましいな。女は強いな...と感じてしまいました。

 スリーター・キニーについてながながと書いてしまったけど、ホントはこう短くキメればよかった。『スリーター・キニーは今、世界で一番リアルな音楽を演る最強のロック・バンドである』と。

 スリーター・キニーのファンのみなさん、熱いエールを→書き込みお願いします(笑)。ファンじゃないかたも、御意見・御感想をお願いします。

(2000.4.28)

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