天然ポエム少女・石井皐月の世界
ええっと、12月6日に我が地元・富山で行なわれたプロモーションのためのフリーライヴ『VINTAGE LIVE COLLECTION vol. 3』で演奏していったハートバザール、もの凄くオモロかったです(笑)。オモロかった要因の90%以上は、このバンドのフロントを務める石井皐月サンのパフォーマンスによるところが大きいんですけど、どこかスポ根したボーイッシュなふるまいといい、時折みせる女っぽさとの落差(笑)といい、CD聴いたときから解ってたジッタリン・ジン春川玲子やリンドバーグ渡瀬マキふうの真っすぐなヴォーカル・パフォーマンスも含め、観ていてとっても面白かった。でも、このバンドの真のオモロさは皐月サンの書く詩にあり!と思ってます。実際にライヴで“有明けの月”の演奏聴いたんだけど、いきなり皐月さんが♪ボクは垂れ流しの汚物〜って歌いだした時には、ギョッ!っとなったもんな、私。この詩の続きは♪キミがクズという世界で、ボクは只のゴミになった〜ですから(笑)。いきなり「汚物」、「クズ」、「ゴミ」ですよ。「いったいこのコは、なんて歌うたうんだ!!!」って思ったモン(笑)。この“有明けの月”は彼女たちの4thマキシ・シングル“アイ”に収録されとります。
ハートバザール--アイ |
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(国内盤 : EMI TOCT-22168) |
で、その“有明けの月”の歌詞はというと。
「垂れ流しの汚物」、「クズ」、「ゴミ」に続いて、「飼い犬とまぐわる」ですからね(笑)。このコの言語感覚はいったいどうなってるんでしょう?...って思ったモン(笑)。この詩を少年のような真っすぐな声に乗せて歌ってくるわけですよ、皐月サンは。だからライヴ観ててインパクトありました、とっても(笑)。
で、この石井皐月さんの書く詩って、他の曲もこんな感じで、ちょっと他のひとが書かないような表現やことばを使ったモノが多いっす。「私の書く詩は他のひとの書く歌詞とはひと味もふた味も違っててよ」って、皐月サン自身、こだわりと自信があるんでしょう、↑上↑の“有明けの月”の詩における表記を御覧いただくとお分かりのように皐月サンは「作詞/石井皐月」ではなく、「詩/石井皐月」という表記を用いています。アルバム『さいはて』でも「All
poems written by Satsuki
Ishii」と表記しています。「lyric」ではなく、あくまでも「poem」であると言い張ってます(笑)。ということで、皐月サン自身、相当に『詩であること』にコダワってることが分かりますね(笑)。そこで、そこまで皐月サンがコダワりをみせる彼女の詩の世界を、アルバム『さいはて』を中心に見ていきましょう。
ハートバザール--さいはて |
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(国内盤 : EMI TOCP-24590) |
石井皐月サンの書く詩は、主語が「ボク」になるものが多いッス。比較対象に名前が挙がるジッタリン・ジンにも「僕」が主語の曲がありますけど、皐月サンの書く詩の主人公はあくまで「僕」ではなく、「ボク」。だいたい、ジッタリン・ジンの歌詞は破矢ジンタが書いてハルちゃんに歌わせてるので、かなり意味合いが違います。その皐月サンの書く詩はいくつかのパターンに整理できますね。
パターン1
変質者系
皐月サンの書く詩には、文字だけ目で追うとギョっとするような変質者系の歌詞を持つものがあります。
キミの目。 歩き方。 しゃべり方。 くちぐせ。 それから それから キミからあふれだす全て。 全ての醜いモノ。 キミの髪。 友情の押し付けや 恋愛のこじつけは ボクには全く無用なモノだよ。 この部屋をキミでいっぱいにしてしまいたい。キミだらけにしたい。 “コレクター”より |
ええっと...(汗)。こうして書き写してるだけで気持ち悪くなってきましたが(苦笑)、この詩、歌ってるのが女のコだからまだ救いがあるというか...(汗)、オトコが歌ったらホントに『変質者』そのものです(笑)。凄まじ〜。
あと、似たような異常心理を歌ったものは...
浅葱色した夜明け前の空の重さがいとおしかった。 木のオルガン、叩き続ける。流れる血は唐紅。 ボクはボクじゃない他の何かがいい。 “色彩”より |
...この詩の場合は軽微な異常心理です(笑)。この詩には私も共鳴覚えたりするし(笑)。好きなひとへの同化願望ですね。自分自身は消えてしまってもいいから好きなひとの傍に居たい...って思ったことありませんか? 私はあります(笑)。“コレクター”における攻撃的な支配欲には全く賛同できませんが。でも、どちらの詩とも、20代前半の女性が歌う詩ではありません!
パターン2
情念系
皐月サンの書く詩には、ごくまれに「ボク」が主語にならないものもあります。「私」が主語になるこの曲なんかは「女唄」になるんでしょうか? ロックの詩に不似合いな難解熟語の頻出は、やたら文語調だったりする椎名林檎と同じく「情念系」を思わせます。
そのざらついた声で、私を惑わす瑣末な事を 戯れに示唆してください。 春告げ鳥の慟哭を口笛で真似てみたんです。 怠惰な日々を許しあうこと、すなわち迎合と 今さらながらあなたの酷く孤高な恣意を愛します。 手を汚す事など何でもないんです。 春告げ鳥の鮮やかな緑青に眼が眩みました。 “共鳴”より |
...ええっと、この曲、音だけ聴いたらまさかこんな詩の内容だとは聞き取れないことでしょう(笑)。詩を読んで初めて分かる...っつうか(笑)。「そのざらついたこえでわたしをまどわすさまつなことをたわむれにしさしてください」...「漢字を当てて意味のある文章にしましょう」っていう漢字書き取りのテストじゃないんだから(笑)。「慟哭」、「緑青」、「怠惰」、「迎合」、「孤高」、「恣意」、そして「思惟」...みんな読み仮名ふれますかぁ?(笑) フツウのロックでは無縁な、こーゆー堅苦しい熟語がバンバン出てくるのも凄い!って思った(笑)。この詩で皐月サンが何を語りたいのかは、おぼろに解る程度ですけど(苦笑)、ミョーに納得出来た一節が「怠惰な日々を許しあうこと、すなわち迎合と あなたが教えてくれました。」ってとこ。「怠惰な日々を許しあうこと」は確かに「迎合」だ(笑)。
パターン3
青春系
皐月サンの書く詩には、恥ずかしくなるくらいの青臭さがにじみでてるものが多いッス(笑)。♪垂れ流しの汚物〜で始まる“有明けの月”もこちらに分類できるでしょう。
12月の小さな焦りの中 震えながら心にもない唄 意味も分からずうたった。 乳白色のセロファンの中の春 飛べない羽根など無いはずだと 笑っちゃうけどあの頃ボクはというと そうする事でしかこのぬるま湯の毎日を 飛べない羽根なら放棄しよう。 初恋のように胸が痛んだ キミとの出会い。 飛べない羽根なら放棄しよう。 “飛べない羽根”より |
いやぁ〜、この詩で歌われるところの「笑っちゃうけどあの頃ボクはというと 泣きたい程 青臭くて必死に周りを嘲笑ってた。」っていうくだりは、身に憶えがあるねぇ(苦笑)。懐かしく感じるほどの青さをふりまいてくれてます。嗚呼、いにしえの日々ぢゃ(笑)。え? 今でもオマエはそうだって???(苦笑)
私はハートバザールの音楽のことを「'70年代青春歌謡曲(青い三角定規など)」が現在に蘇ってロック演ってる」って評したことありますけど、この徹底的な青臭さも皐月サンの詩の魅力。
パターン4
決意表明系
皐月サンの書く詩には、自身の詩人としての決意表明と取れるものもあります。
矢継ぎ早に不細工な雨を待つ 浮腫んだ午後。 無意味なまま、言葉の羅列を紡ぎ音楽にする日々。 泥の船に何にも云わずにボクと乗って欲しい。 繰り返した冷ややかな年月も、無駄な幾何も、忘れる程 泥の船に何にも云わずにボクと乗って欲しい。 痛み分けのセンチメンタルなんて歌いたくない。 “さいはてのうた”より |
皐月サンの詩には、今のJポップ界主流の、無為に消費されるようなラヴソングってものは存在しません。「痛み分けのセンチメンタルなんて歌いたくない」んだもん、彼女(笑)。最初のくだり「矢継ぎ早に不細工な雨を待つ 浮腫(むく)んだ午後。無意味なまま、言葉の羅列を紡ぎ音楽にする日々。」ってのはかなり皐月サン自身のことを投影してるように思えます。それにしても、「不細工な雨」ってどんな雨や!? ホントにこのコの詩はオモロいねえ(笑)。
そして...
「言葉はすべて辻褄あわせでくだらない。」...と詩人らしからぬセリフを皐月サンは吐いてますが、ホントに言葉はくだらない...と思ってるひとがここまで凝った詩作するかっつうの!(笑)。そんな「くだらない」ものにこれからもコダワっていく...っていう決意表明した逆説的表現だと思ってます(笑)。
とまあ、駆け足で皐月サンの詩の面白さを検証してみましたが、↑上↑の4タイプの詩が1枚に収まるハートバザールの『さいはて』って凄いでしょう???(笑) 「純粋さと狂気が同居」っつう表現が、まさにピッタリ!!! ライヴ会場で配ってた『ハートバザールにこにこつうしん はいからはくち其ノ二十七』(すべて皐月サンの手書き原稿によると思われる)新聞の凄まじく狂った内容(詩、短歌、ハートバザール適正検査...などを掲載)を見る限り、あのコにはまだまだオモロい詩が書けるハズ。これからも期待してます(笑)。
(2001.12.20)