スーパーグループの栄光と転落、そして再生
1980年代に『スーパーグループ』の名を欲しいままにした英国の4人組・エイジアは、元キング・クリムゾン〜U.K.のジョン・ウェットン(vo.,
b.)、元イエスのスティーヴ・ハウ(g.)、元エマーソン、レイク&パーマー(以下、E,
L&P)のカール・パーマー(ds.)、そして元バグルズ〜イエスのジェフリー・ダウンズ(key.)によって結成さてたバンド。江戸幕府三代将軍・徳川家光が「生まれながらにして将軍」だとしたら、プログレ界で名の知れたバンドでキャリアを築き上げ、すでに名声を得ていた彼らは、結成時点ですでにスター・バンドだったワケ。この『プログレ界のオールスターバンド』のデビュー・アルバム『詠時感〜時へのロマン〜』は本人たちが考えてた以上の大成功を収めた。なにしろ、彼らがこれまで所属してたどのバンドよりも商業的な成功を収めたんだから(苦笑)。彼らが昔所属してたプログレ・バンドがアナログ・レコードの片面全部を使って表現してたようなドラマを、4分間のコンパクトな楽曲で表現。プログレふうの仰々しいドラマ性を保ち、変拍子などの仕掛けも織り込みつつ、ポップな表情も併せ持った楽曲群は全米を中心に多くの人々に受け入れられ、全世界で1,000万枚以上ものセールスを記録。
エイジアはここ日本でも商業的に大成功。プログレ・ファンの間では彼らのバンドの結成ニュースがデビュー前から話題になっており、そういうデビュー前の彼らの動向を報じる日本の音楽ニュースでは、彼らのバンド名の日本語表記が「アジア」になってたのも今となっては微笑ましい(『オリコン・ウィークリー』など)。そんな彼らのデビュー・アルバムがリリースされ、大成功を収めた1982年といえば、ちょうど私が洋楽に目覚めた年。当時私が毎週必ず聴いてたラジオ洋楽チャート番組『オール・ジャパン・ポップ20』(文化放送系)でも彼らのデビュー・シングル“Heat
Of The
Moment”が上位にランクされていたため、頻繁にこの曲を耳にしてました。そういうことで、“Heat
Of The
Moment”は私の洋楽原体験に近い位置付けの曲のひとつです。とはいっても、洋楽に関しては完全に『若葉マーク』だったため、エイジアというバンドがどうして『スーパーグループ』と呼ばれてるのか、彼らの偉大さについて全然解っていなかったケド(苦笑)。1982年夏頃の『オール・ジャパン・ポップ20』には、“Only
Time Will
Tell”(邦題は“時へのロマン”)もチャート・インしてました。
洋楽を聴く楽しさにすっかりハマった中学1年生は、翌年に中学2年生となると毎月洋楽雑誌の『ミュージック・ライフ』を購入し、毎週土曜深夜にはラジオ日本の『全米TOP40』を聴いてチャートをノートに記録するほどに『病状』が進行(苦笑)。'83年夏には2ndアルバム『アルファ』がリリースされ、先行シングルの“Don't
Cry”が『Billboard HOT
100』のチャートを駈け上ってくのもリアル・タイムで体験しました(最終的にこの曲は10位までランク・アップ)。初の来日公演を直前にして、看板ヴォーカリスト(兼ベーシスト)のジョン・ウェットンがバンドを脱退したというニュースを知ったのも『全米TOP40』の放送中でした(ちなみに、カジャグーグーからリマール脱退のニュースを知ったのも、『全米TOP40』)。当時の私はエイジアのメンバーの顔と名前と担当楽器が一致しておらず、ウェットン脱退のニュースを聴いて「ドラムのヤツが脱退した。あんなスゴいドラムを叩いてたヤツが脱退して、代わりなんて居るんだろうか?」と思ったものでした(爆笑〜!!!)。脱退したウェットンの代わりの代役に、急遽パーマーの元同僚のグレッグ・レイク(元E,
L&P)を充て、武道館公演を含めた初のジャパン・ツアーを敢行したのは、このジャパン・ツアーの模様が『MTV』で『ASIA
IN
ASIA』として全米中継する予定が入ってたお蔭で穴を空けられないための緊急避難的措置で、あくまでも急拵えの代役でしかなかったレイクにエイジアの曲の歌詞を覚えられるわけはなく、足元に流れるテレロンプターの歌詞をみながら歌うという醜態をさらしたのは有名な話。また、メイン・ソングライターのひとりでありながら、レイクにとっては『若造』以外の何者でもなかったダウンズの態度に怒ったレイクが「キース・エマーソンを呼んで来い!」と悪態をついたというアブナイ話もありました(苦笑)。このウェットン脱退を契機に、エイジアは坂を転げるかのように堕ちてった..。
『ASIA IN
ASIA』のための代役でしかなかったレイクは日本公演の後、ほどなく脱退。レイクの穴は、脱退したはずのウェットンが出戻りという形で埋め、元の鞘に収まったかと思ったら、今度はハウが脱退し、元ジェネシスのスティーヴ・ハケットとGTR結成に動いてしまう。残されたウェットン、パーマー、ダウンズの3人は後任ギタリストに元クロークスのマンディ・メイヤーを迎え、'85年に3rd『アストラ』をリリース。この『アストラ』というアルバムは、HM/HR専門誌『BURRN!』のアルバム・レヴューで97点(100点満点で。評者は大野奈鷹美サン)を獲得するなど、決して悪い内容では無かったにもかかわらず、商業的に大コケしてしまい、バンド内はガタガタに...。
エイジアのフロントマンであるウェットンが半ば追い出されるような形でバンドを脱退し、彼の復帰に伴いハウが脱退したことからもなんとなくおぼろげながらみえてくるのが、ウェットンとハウの人間関係...(苦笑)。ウェットンとハウの間だけではなく、他のメンバー間にもイロイロと軋轢があったのだろう、その後ウェットンとパーマーが抜けてしまったエイジアは、ダウンズと後任ヴォーカリスト兼ベーシストのジョン・ペインの2人によるプロジェクトと仮し、すっかり『スーパーグループ』でも何でもない状態で細々と活動を続けてた。私も含め、多くのファンがエイジアに見切りをつけてた。時代もグランジ/オルタナ全盛であり、'80年代流行ったモノを否定する風潮となってしまったため、エイジアのサウンドは時代からも敬遠され、ファンの大多数も一般音楽ファンもエイジアのことなんかすっかり忘れてしまってた。
突然の話が舞い込んで来たのは、2006年。バンドの結成25周年を記念し、オリジナル・メンバー、すなわち、ウェットン、ハウ、パーマー、ダウンズの4人でツアー限定のみで再結成するという。最初はアメリカを中心に廻ってたところ、大きな歓迎をもって受け入れられたうえ、彼ら自身の人間関係が思いのほか上手く行ったため、再結成ツアーの日程はどんどん伸びていった。そして、2007年、デビュー25年目にして初めてこの4人が日本でライヴを行った! 残念ながら私は観ることは出来なかったが、1stからの曲を全曲演ったうえ、4人のバンドがかつて籍を置いたバンドから1曲ずつ持ち曲を演るという趣向があったため、大いに盛り上がったみたい。この時の模様はライヴ作品(CDまたはDVD)『ファンタジア〜ライヴ・イン・トウキョー』としてリリースされてる。
当初は再結成ツアーのみという話だったけど、4人での活動が当初思ってた以上に居心地が良かったんだろう、再結成新録アルバムの制作に着手し、完成に漕ぎ着けた。この4人での25年ぶりの新作は『フェニックス』と名付けられ、2008年にリリースされた。この新作は、まるで1983年に戻ったかのように、往年のエイジアのサウンドそのものだ。ただし、ウェットンとパーマーが健康を損ねてた時期にあたってたため、最新作と比較するとダークであり、組曲タイプの曲を2曲収録するなど、かつてないほどプログレふうの味付けがなされている。
そして、2010年。相変わらず4人の関係は上手く行ってるようで、再結成第2弾アルバム『オメガ』がリリースされ、すでにジャパン・ツアーも行われてる。この4人が揃っての活動は、(結成時からウェットン脱退までの2年を上廻る)5年目に突入。名のあるミュージシャンが集まって出来たバンドだけに、昔はお互いの意見の不一致があれば「どうしてオレ様の言うとおりに出来ないんだ!?」などとすぐに仲も険悪になることもあったかもしれないけど、彼らも年齢を重ね、他人の意見に耳を貸したり、受け入れるだけの度量が備わったみたい...(苦笑)。その代わり、再結成後の彼らのサウンドは、どんなにプログレふうの味付けをしても1stの緊迫感やスリル、ドラマ性にはかなわない。やはり、1stで聴けるスリリングなサウンドは、人間関係に緊張感があったからこそ出たものであり、そんなサウンドを続けてたらバンドが空中分解をするのは必至だったんだなぁ〜〜〜ってことが、秀作だけど何かが足りない再結成エイジアのサウンドを聴くとよ〜〜〜く分かります(苦笑)。
エイジアの後、『スーパーグループ』と呼ばれるバンドは幾つも誕生したけど、彼らほどの成功を得る者は居ませんでした。そして、彼ら自身がデビュー・アルバムで得た成功以上のモノをつかむことは2ndリリース後も無かったし、おそらく、今後も無いでしょうね(苦笑)。
今のエイジア。決して、老人会の集合写真ではありません!(苦笑)
左から、カール・パーマー、ジョン・ウェットン、スティーヴ・ハウ、ジェフ・ダウンズ。
Asia (John Wetton Era) Discography
Asia |
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(国内盤 : ユニバーサル
MVCG-18501) |
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Alpha |
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(国内盤 : ユニバーサル
MVCG-18502) |
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Astra |
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(国内盤 : ユニバーサル
MVCG-18503) |
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Then & Now |
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(import : Geffen 9
24298-2) |
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Fantasia Live In Tokyo |
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(国内盤 :
WHDエンタテインメント IECP-20055〜6) |
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Phoenix |
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(国内盤 : キング
KICP-1300) |
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Omega |
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(国内盤 : キング
KICP-1470) |
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(2010.5.31)