開いてしまった'90年代のタイムカプセル〜ペイヴメント

 1990年代のオルタナティヴ・ロックを代表するバンド、ペイヴメントが10年ぶりに再結成し、11年ぶりにジャパン・ツアーを行った。私はその11年ぶりのジャパン・ツアーを大阪で観て来たけど、現役時代('99年の5th『テラー・トワイライト』リリース時)よりも大きいハコでのライヴ、しかも、観客の殆どが現役時代の彼らを観たこともなさそうな若いファンで、如何に彼らが新世代のロック・ファンたちに再評価され、密かに人気が盛り上がってたかを実感した。
 彼らが1st『スランテッド&エンチャンテッド』を引っ提げ、ピッピーおやぢドラマーのギャリー・ヤングを含む「伝説」の編成で初の来日公演を行った1993年、私はまだ彼らの存在すら認識しておらず、ギャリー・ヤングがライヴでみせた奇態(逆立ちなど...苦笑)や野菜配り(爆笑〜!!!)は、彼らに興味を持ち始めてから音楽雑誌のバックナンバーなどを読み返してから知った話(苦笑)。
 私が彼らの存在を認識し、初めてその音楽を耳にしたのは、2nd『クルーキッド・レイン、クルーキッド・レイン』が出た1994年のこと。音楽雑誌『rockin' on』のディスク・レヴューでピック・アップ・アレバムとして筆頭に取り上げられ、当時の日本での発売元であったキング・レコードの「俺はがんばってる 俺はがんばってる 俺はがんばってる」の文字列の繰り返しでページを埋め尽くした力の入った(?)広告を目にすれば、嫌でも興味を持ってしまう(苦笑)。'94の春といえば、ちょうどBECKが“Loser”で鮮烈なデビューを果し、「ローファイ」に注目が集まってた時で、2nd『クルーキッド・レイン、クルーキッド・レイン』のサウンドも、BECKの『メロウ・ゴールド』と比べてしまうと随分マトモ(普通のロック)に聴こえてしまったものだ。ただ、この『クルーキッド・レイン、クルーキッド・レイン』は、スティーヴン・マルクマスのシニカルな姿勢が醸し出すクールネスと、ポップなメロディーが堪能できる優れたロック・アルバムとして、個人的には彼らの作品のなかで一番愛聴してるアルバム。
 次にリリースされた3rd『ワーウィー・ゾーウィー』は、日本での発売元がキングからポニー・キャニオンに移る狭間に当たってしまい、日本盤の発売が欧米より遅れたタイミング(2ヶ月遅れ)となったためか、満足なプロモーションも行われなかったふうに記憶してる。この3rdはオモチャ箱ひっくり返したように色んな曲が収録されてることから、彼らのディスコグラフィーでも特に異色作といえると思う。
 1997年年明け早々に日本先行で発売された4th『ブライトゥン・ザ・コーナーズ』では、日本盤発売元のポニー・キャニオンが売る気満々でプロモーションしたこともあり、おそらく日本で一番売れたペイヴメントのアルバムになったハズ。2ndに匹敵するくらいポップな作品となったため、日本のレコード会社が力を入れずともそれなりに売れたであろう
このアルバムに伴うジャパン・ツアー(おそらく、3回目の来日)で初めて彼らのライヴを観に行くことになった私は、『ライヴの予習』としてここで初めて1stの『スランテッド&エンチャンテッド』を聴いた(笑)。ギャリーが抜け、スティーヴ・ウエストが入ってから普通のオルタナ・バンドっぽくなって(?)からのペイヴメントしか知らない耳にはかなりヘンな音楽に聴こえ、『伝説』のギャリー時代の凄さをここで初めて実感(苦笑)。実際にライヴを観て、初めてドラマーが2人居る(スティーヴとボブ・ナスタノヴィッチ)ということに気付き、スティーヴン・マルクマスだけじゃなくスコット・カンバーグ(スパイラル・ステアーズ)もヴォーカルをとることも知ったけど、やっぱりどの曲を演奏してるのか解らないというロー・ファイぶりや、あれこれ楽器を持ち替え、奇声を発するボブのインパクトに圧倒された(苦笑)。この時のライヴに比べると、'99年の『テラー・トワイライト』に伴う来日公演今回の再結成ツアーは、かなりマトモな演奏といえる(苦笑)。
 彼らが現役時代にリリースした最後のアルバム『テラー・トワイライト』(1999年)は、ナイジェル・ゴッドリッチがプロデュースした意欲作だったけど、音楽メディアにおける扱いにおいても4thリリース時ほど大きな話題にもならず、
その後の来日公演もどこかひっそり行われた印象がある。2000年になってペイヴメントの解散が発表された時も、そんなに大きな騒ぎにはならなかったように記憶してる。
 ここまで、私とペイヴメントの関わりについて淡々と述べてきたけど、正直言って、今回の2010年限定の再結成のニュースを耳にしても私はそんなに興奮はしなかった。ツアーにし日本に来るかどうか判らなかったから。海を渡ってライヴ観に行くほど私は彼らのファンじゃないし...(苦笑)。彼らの再結成がホントに慶事として心から実感出来るようになったのは、やっぱり来日公演が発表されてからと、アルバム『ザ・ベスト・オブ・ペイヴメント』がリリースされ、音楽雑誌にボブのインタヴューが載ってるのを読んだ頃から。私がペイヴメントを聴いてた'94〜'99年は、就職活動〜就職〜このサイト『SPILL THE BEANS!』開設前夜に該当し、
今回の再結成ジャパン・ツアーにあたって『ザ・ベスト・オブ・ペイヴメント』や過去の5枚のアルバムを聴いて、その頃の出来事とかイロイロ思い出してしまった。まさに、私にとって'90年代の『タイムカプセル』だ(苦笑)。
 
再結成ジャパン・ツアーのうち、私が観たのは大阪公演だけど、久しぶりに観た彼らの姿は、どっかの大学の学生バンドみたいという昔のまんまのペイヴメントだった(スコットがハゲたことを含め、もう学生では通らないルックスのメンバーも居たが...苦笑)。ただ、'90年代には異端視されてた「演奏技巧の上達を待つより先に、創造意欲のおもむくままに自分たちの出したい音を出したいように出す」といった彼らのロー・ファイなサウンドが、'00年代のミュージック・シーンを通過した今のロックにおいてはすっかりアタリマエの文法論になってることと、周囲の新世代の後追いファンたちの熱烈歓迎ぶり(と、昔現役で聴いてたオールド・ファンも少ないの)が幸いしてか、『懐メロショウ』にはなっていなかったが...(苦笑)。
 今回の再結成はあくまでも時限的なモノであるそうだけど、10年に一度くらいはこうして集まって、'90年代のロー・ファイの神髄をその時々の新世代ロック・ファンに見せつけて欲しいものです。


往年のペイヴメント。左からマーク・イボルド(b.)、
スティーヴ・ウエスト(ds.)、スコット・カンバーグ(スパイラル・ステアーズ)(g., vo.)、
ボブ・ナスタノヴィッチ(perc.)、スティーヴン・マルクマス(vo., g.)

Pavement Discography

Slanted And Enchanted

(国内盤 : ベガーズジャパン BGJ-10062)
1. Summer Babe (Winter Version)
2. Trigger Cut/Wounded-Kite At :17
3. No Life Singed Her 4. In The Mouth A Desert
5. Conduit For Sale! 6. Zurich Is Stained
7. Chesley's Little Wrists 8. Loretta's Scars 9. Here
10. Two States 11. Perfume-V 12. Fame Throwa
13. Jackals, False Grails : The Lonesome Era
14. Our Singer
 1992年にリリースされた衝撃的デビュー作で、ビッピー・オヤジのギャリー・ヤング在籍時の唯一のアルバム。カラカラに乾いたギター、ペラペラに薄いドラムス、投げやりなヴォーカル...今でも『ローファイ』の好例(?)として挙げられることも多い作品で、彼らの代表曲“Summer Babe”を収録。このアルバムのカラカラ/ペラペラ具合は、炎天下のなかの砂漠を歩く様を思わせる(苦笑)。誰でも作れそうな曲“Two States”など、ローファイで前衛的な曲が多数並ぶなか、ポップで親しみ易いメロディーを持つ“Trigger Cut”や“Perfume-V”も収録。

Crooked Rain, Crooked Rain

(国内盤 : ベガーズジャパン BGJ-10063)
1. Silence Kit 2. Elevate Me Later 3. Stop Breathin
4. Cut Your Hair 5. Newark Wilder 6. Unfair
7. Gold Soundz 8. 5-4=Unity 9. Range Life
10. Heaven Is A Truck 11. Hit The Plane Down
12. Fillmore Jive
 2004年早春にリリースされた2ndで、私が初めて彼らの作品に触れた記念すべき(?)アルバム。
 前作でヘナチョコ・ドラムを叩いてたギャリーおやぢに替わり、スティーヴ・ウェストが加入したお蔭で、リズム・パートがかなりフツウになった(笑)。投げやりなヴォーカル・パートは前作のままだけど、楽曲がポップなため、彼らの作品のなかでは聴き易い作品。前回が『砂漠』のイメージだとしたら、今回は時たまイイ風が吹く南国リゾートっぽくなっており(苦笑)、彼らの音楽をこれから初めて聴いてみよういう入門者には、このアルバムをオススメしたい。“Silence Kit”、“Cut Your Hair”、“Unfair” など彼らの代表曲を多数収録。インストの“5-4=Unity”、スマッシング・パンプキンズやストーン・テンプル・パイロッツを小馬鹿にした“Range Life”なども面白い。ちなみに、“Elevate Me Later”は'94年に発売された日本盤(キング盤)には“Ell Es Two”とクレジットされてた。

Wowee Zowee

(国内盤 : ベガーズジャパン BGJ-10064)
1. We Dance 2. Rattled By The Rush 3. Black Out
4. Brinx Job 5. Grounded 6. Serpentine Pad
7. Motion Suggests 8. Father To A Sister Of Thought
9. Extradition 10. Best Friend's Arm
11. Grave Architecture 12. AT & T 13. Flux = Rad
14. Fight This Generation 15. Kennel District
16. Pueblo 17. Half A Canyon 18. Western Homes

 早くも1995年にリリースされた3rd。
 このアルバムには、まるでオモチャ箱をひっくり返したかのようにイロイロなタイプの楽曲が収録されており、ほとんどS.E.みたいな短い曲もあるため、全18曲入り。「ヴァラエティーに富んでること」=「散漫」な印象を持つかもしれないけど、そこは「世間を小馬鹿にする」というシニカルなアティテュードを示すことで、作品としての首尾一貫性を保ってる(笑)。
 彼らのキャリア中、2ndと4thがポップな名作のため、無視されがちな作品だけど、ボブ・ノスタノヴィッチの奇声(掛け声)が映える“Best Friend's Arm”や、“Y. M. C. A.”(西城秀樹の“ヤングマン”)みたいな“AT & T”、曲の後半に無気味に盛り上がる“Fight This Generation”などの曲が面白く、私は大好きです(苦笑)。

Brighten The Corners

(国内盤 : ベガーズジャパン BGJ-10065)
1. Stereo 2. Shady Lane/J. Vs. S.
3. Transport Is Arranged 4. Date W/ IKEA
5. Old To Begin 6. Type Slowly 7.Embassy Row
8. Blue Hawaiian 9. We Are Underused
10. Passat Dream 11. Starling Of The Slipsteam 12. Fin
 1997年アタマにリリースされた4th。
 カラカラに乾いたローファイ・サウンドは残しながらも、(彼らにしては)ポップな作品で、2ndと同じくらい聴き易い。日本においては一番売れたハズ(発売当時、日本盤買いにCDショップに行ったら、品切れ&入荷待ちを経験)。
 RUSHのハイ・トーン・ヴォーカリスト(兼ベーシスト)のゲディ・リーの声の高さを揶揄する“Stereo”、ライヴで観客が盛り上がる爽快チューン“Shady Lane”、疾走感あふれる“Embassy Row”、お祭り騒ぎの後の寂しさを感じてしまう“Blue Hawaiian”など魅力ある楽曲が収録されてる。

Terror Twilight

(国内盤 : ベガーズジャパン BGJ-10066)
1. Spit On A Stranger 2. Folk Jam 3. You Are A Light
4. Cream Of Gold 5. Major Leagues 6. Platform Blues
7. Ann Don't Cry 8. Billie 9. Speak, See, Remember
10. The Hexx 11. Carrot Rope
 1999年リリースの5thで、最終作。
 レディオヘッドのアルバムを手掛けてこの時点ですでに有名になってたナイジェル・ゴッドリッチをプロデューサーに起用。ペラペラ乾いたサウンドは保ちつつも、音像が綺麗に整理されてしまった結果、デビュー時の彼らの持ち味だったドブ板をぶち抜くが如く自由気ままに音を鳴らしてた奔放さやアングラ的体臭がすっかり影を潜めてしまった。すっかりフツウのバンドになっちゃったような...。前作を思わせる親しみ易い楽曲“Spit On A Stranger”、オルタナ・カントリーな“Folk Jam”など、聴きどころはあるんだけど...。ソニック・ユースみたいな“The Hexx”からは、奈落の底に沈んでくような息苦しさが感じられ、バンドの終焉を予感させてた(?)。

Quarantine The Past

(国内盤 : ベガーズジャパン BGJ-10061)
1.
Gold Soundz 2. Frontwards 3. Mellow Jazz Docent
4.
Stereo 5. In The Mouth A Desert 6. Two States
7. Cut Your Hair 8. Shady Lane/J. Vs. S. 9. Here
10. Unfair 11. Grounded
12. Summer Babe (Winter Version) 13. Range Life
14. Date W/ IKEA 15. Debris Slide
16.Shoot The Singer (1 Sick Verse)
17.
Spit On A Stranger 18. Heaven Is A Truck
19.
Trigger Cut/Wounded-Kite At :17 20. Embassy Row
21. Box Elder 22. Unseen Power Of The Picket Fence
23.
Fight This Generation
 再結成に合わせて、2010年にリリースされたコンピレーション。世間では「ベスト盤」とされているが、『ノー・オルタナティヴ』のコンピレーションや初期E.P.収録曲などアルバム未収録の楽曲を手軽に入手可能とする救済措置が行われているため、5枚のアルバムからの曲が占める割合が意外に低い。したがって、真の意味での「ベスト盤」ではないような...。↑上↑の曲目は、が1st、が2nd、が3rd、が4th、が5thから...と色分けしてるので、分かりやすいと思うけど、収録されてる曲のセレクトにも偏りがあり、「らしさ」を失いつつあった5thからの曲が1曲のみなのは仕方ないとしても、3rdからも2曲のみなのが個人的には納得いかない...。
 曲順も、意図的に無愛想になるようにしてるように聴こえるんだけど、アルバム未収録曲6曲が3つに分散されて収録されてることからも、何らかの意図が見え隠れそてるような...(苦笑)。

others

Westing (By Musket And Sextant) (import : Drag City DC14CD)
 1stアルバムが世に出る前にリリースされてたE.P.などの音源を編纂した初期音源集。1stよりもさらに進んだローファイぶりに、もはや苦笑するしかない?

(2010.4.30)

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