片田舎の幼馴染み3人組から英国の国民的バンドへの出世で得たものと失ったもの〜スチュアート・ケイブルの死によせて〜
日本時間の6月8日に突然飛び込んで来た訃報...元・ステレオフォニックスのスチュアート・ケイブルが急死。この悲しいニュースを耳にしてショックを受けたロック・ファンがどれだけ居たか私は知らないが、ドラマーの扱いが不遇なこの日本で彼の死にショックを受けたロック・ファンはそれほど多くないと思われる。だけど、私は彼の訃報を耳にして、凄くショックを受けた。何故なら、スチュワート在籍時のステレオフォニックスが大好きだったから。
ステレオフォニックスは英国・ウェールズの片田舎の幼馴染み3人...ヴォーカル&ギターのケリー・ジョーンズ、ベースのリチャード・ジョーンズ、ドラムのスチュアート・ケイブル...により結成され、1997年にアルバム『ワード・ゲッツ・アラウンド』でデビュー。ヴァージン・グループ総帥のリチャード・ブランソンが『Virgin』レーベル売却後に新たに設立した『V2』の第一号アーティストとして華々しくシーンに登場した彼ら、その愚直なまでのイノセントなサウンドとケリーのシブい歌、そしてライヴ・パフォーマンスを武器に本国・英国内でどんどん支持を広げていった。所属レーベルが新興会社だった悲しさか、日本での発売先が整わないうちにブリット・ポップが下火になりつつあった英国のロック・シーンの注目株になってしまい、1年遅れで日本デビューが決まった時にはすでに数々の賞を受賞し、英国のロック・シーンにそれなりの存在感を持つバンドになっていた。日本での初のライヴは第2回目の『フジ・ロック』となった『FUJI
ROCK FESTIVAL '98 IN TOKYO』であり、英国で登り調子のバンドの勢いを見せつける熱いパフォーマンスで日本のロック・ファンのド肝を抜いた。あの熱演でかなりのファンを日本でつかんだハズである(私もそのうちのひとりだ)。その年の10月の単独来日ツアー、そして、翌1999年の2nd『パフォーマンス・アンド・カクテルズ』のリリースとそれに伴うジャパン・ツアーで彼らの日本における人気は決定的なものになった。この頃の彼らの音楽の魅力は、純真さと青さ、そしてハスキーな歌声がシブいケリーの歌唱だ。ここまでの彼らは田舎の兄チャンが趣味の延長でそのままロック・バンド演ってる感じだった。趣味で演ってるバンドがたまたま売れてしまっただけ...というように。
彼らに変化が訪れたのは、3rdの『J.E.E.P.』の頃からだろう。今までの「たまたま売れてしまったアマチュア・バンド」みたいなそこらの兄チャンから、本格志向になったのである。それまでメンバー3人の名が連名でクレジットされていた作詞・作曲が、3rdからはケリー1人のみのクレジットになった。それまでバンドのジャム・セッションで曲を書いていたのがケリーひとりによる作曲に変わったためのクレジット変更か、はたまた、それまでは友達関係を優先させ権利を3等分させていたのを実作曲者(のケリー)のみに権利を与えるのに変えたためなのか、実際のところのバンドの内部事情は分からないが...。また、1stから3rdまでの連続大ヒットによりウェールズの片田舎バンドから英国の『国民的バンド』へと登り詰め、ショウマン・シップに目覚めたということもあったんだろう。2001年の『フジ・ロック』では、スチュアートのバス・ドラムに日本語で『よい一日に』(have
a nice
day)と書いているくらいで笑って観ていられたが、4th『ユー・ガッタ・ゴー・ゼア・トゥ・カム・バック』リリース後の2003年の『SUMMER
SONIC '03』では女性バック・コーラス2名を含め、サポート・メンバーが4人も居て、彼ら3人を含めると7人の大所帯でステージに登場。4thアルバムの内容も、そしてライヴでのパフォーマンスの内容もまるでブラック・クロウズのようで、ダイナミズムと引き換えに素朴さも純粋さも失ったような演奏でビックリしたものだった。思えば、この時に丸太のような太い腕でドラムを叩くスチュアートを観たのが、私にとってはナマのスチュアートを目撃した最後の機会になった。残念なことに...。この後、スチュアートはバンドの練習に来ないなど、バンド活動に対しての不真面目な態度を咎められバンドから追放されてしまった(という話)...。もはや友達同士がお遊びで演ってるバンドでは無い以上、プロフェッショナリズムが何よりも(友情よりも)求められるということか...? 私にとってステレオフォニックスは最初の、ケリー、リチャード、スチュアートが揃った3人であり、後任に新しいドラマーが入ってからはすっかり興味を失ってしまった。スチュアート脱退後初のアルバムとなった5th『ランゲージ、セックス、ヴァイオレンス、アザー?』もなかなかの力作だったとは思うけど...。
ここまでの文章読んで「オレはスチュアートが好きだったんだッ! だから彼の居ないステレオフォニックスは認めないッ!」というように無いモノねだりしてるガキのように思われちゃうかもしれないが、マジメな話、初期のステレオフォニックスの魅力は、曲を聴いてるとその歌詞世界の情景が目の前に広がってくるようなストーリーテラーぶりだった...と、今振り返ってみて思う。彼らの曲のタイトルって、“Local
Boy In The Photograph”、“Billy Daveys Daughter”、“The Burtender
And The Thief”、“She Takes Her Clothes Off”、“I Stopped To Fill
My Car Up”、“Have A Nice Day”、“Everyday I Think Of Money”、“
You Stole My Money Honey”、“Since I Told You It's
Over”...というふうに小説や映画のタイトルになりそうなものが多かった。ケリーの歌も、まるでストーリーを朗々と読み上げるような歌いっぷりで、ラジオドラマを聴いてるような感覚になれる曲もあったりした。ところが、5th『ランゲージ、セックス、ヴァイオレンス、アザー?』では曲のタイトルを単語にしたため、そのような面白みは少なくなり、その後のアルバムでは曲のタイトルこそ元のスタイルに戻ったけど、ストーリーテラーとしての魅力は戻り切れていないような気がする。
ということで、2003年の『SUMMER
SONIC '03』を観たのが私がスチュアートを目撃した最後のライヴになってますが、ケリーとリチャードの姿を目撃したのも、その時が最後となっとります(苦笑)。
Stereophonics Discography
Word Gets Around |
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(国内盤 : ユニバーサル
UICY-60050) |
Performance And Cocktails |
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(国内盤 : ユニバーサル
UICY-60051) |
Just Enough Education To Perform |
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(国内盤 : ユニバーサル
UICY-60052) |
You Gotta Go There To Come Back |
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(国内盤 : ユニバーサル
UICY-60053) |
Language, Sex, Violence, Other? |
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(国内盤 : ユニバーサル
UICY-60054) |
Live From Dakota |
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(import : V2/Nettwerk 0 6700
30562 2 9) |
Pull The Pin |
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(国内盤 : ユニバーサル
UICO-1144) |
Decade In The Sun : The Best Of Stereophonics |
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(国内盤 : ユニバーサル
UICR-1079) |
Keep Calm And Carry On |
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(国内盤 : ユニバーサル
UICR-1084) |
(2010.9.9)